いま話題の『パルワールド』を40時間ほど遊んでみた|ecg.mag #08

パルかのように家事をしたり、仕事をしたり
enchant chant gaming 2024.01.31
誰でも

こんにちは、ecgの松本です。

話題の『パルワールド』を40時間ほど遊んでみましたが、大変おもしろかったです。

「パクリ」議論でTLが賑わっているものの、実際にある程度遊んだ人の感想はあまり出てきてないなと感じたのもあり、簡単に所感を書いてみたいと思います。

ちなみにPocketpairの過去作品や、『ARK: Survival Evolved』などのいわゆるサバイバルクラフトゲームは遊んだことがないです。なので、サバイバルクラフト初見プレイヤーの感想として読んでもらえればと思います(オープンワールドのゲームとしては、原神をそこそこやっています)。

なお、過去作を踏まえた分析としては、こちらの記事が大変面白かったので共有します。

まずパルワールドというゲームの構成要素をざっくりまとめると、「フィールドでの戦闘(パルの捕獲含む)」と「拠点でのクラフト」の二つがあり、どちらも捕まえたパルを使用します。戦闘・捕獲の方もアクションゲーム版のポケモンという感じでそれなりにおもしろいのですが、やはり興味深いのはクラフトです。

パルを捕まえるためのボールや各種装備品を製造するためには、「設備を作る」「素材を集める」「製作する」といった工程が必要ですが、それらを手作業でやると膨大な時間がかかります。なので捕まえたパルたちを拠点に放し飼いにし、人間の代わりに働かせることになります。実際今、自分の拠点では15匹のパルたちがせっせと鉱石を掘ったり、ベリーを栽培したり、火薬を製造したりしています。その様子は、ポケモンというよりもピクミンに近いです。

パルには種類ごとにそれぞれ得意な作業ジャンルがあり、拠点に放しておくと勝手に自分のタスクを見つけて作業を進めていきます。しかし、パルの挙動を制御するAIは微妙にポンコツで、やって欲しい作業とは違う作業を始めてしまったり、段差に引っかかってしょっちゅうスタックしたりします。素材の収集から加工までをすべて自動化したいのに、パルがいまいちうまく動いてくれなくて全体の工程が止まってしまう、ということが頻出するわけです。

この「アホなAIの挙動をマネジメントする」という部分が、個人的に本作の一番おもしろかったところです。ルンバが動きやすいように部屋を片付けるのと同じように、パルがちゃんと働けるように各設備の配置を見直し、拠点内の動線を整える必要があります。

先に紹介した記事では、こうしたパルワールドのサバイバルクラフト要素はかなりマイルドだと評価されています。実際、これらはいわば「おままごと」であり、ゲームとして歯応えがあるわけではありません。序盤こそ試行錯誤が楽しいですが、中盤以降は結局ある程度自動化に成功してしまうので、現状のコンテンツ量ではたしかに飽きてしまいます。

ただ、明らかにポケモンのパロディとしてデザインされていると思われるパルが、ちゃんとゲーム内においても「アホなAI(=完全に自律的なキャラクターではない、不完全でマヌケな存在)」として機能しているのはコンセプチュアルでおもしろく、自分としてはそこがこのゲームの真価だと感じました。

「パル」はある種のアクターの性質を表現するのに便利な比喩です。自分も今日、パルかのように家事をしたり、仕事をしたりしました。あるいは他人の仕事ぶりについて「パルみたいだな~」と思ったりしました。人間とAI、人間とbotという対比では表現しきれない行為者のありようを言い表す語彙を提供してくれたという点で、本作は非常に印象的でした。

🌐今月のトピック紹介

SF作家の津久井五月による最新の短篇。ざっと内容紹介をするなら、次の通り。「風が吹けば桶屋が儲かる」という言い回しにあるように、主体の意志の埒外にあっても何らかの事象と事象はおそらく相互作用している。同作は、そういうミクロな相互作用が「ツル」として実体化し「絡まり」合う場所としての異貌の都市を、幻想文学風の味つけで描く。ネットワーク科学めかされたこの都市では、ごちゃごちゃした都市経験の絡まり合いが脳内のシナプス結合と並置され──それならばとでも言うように──比喩的な睡眠の最中に組み換わりもする。「剪定され、新たなタネを撒かれたその日、都市はずっと夢を見ていた」。その美しい一節にたどり着くまで、ぜひご一読を。(太田)

今月1/12に最初の動画が投稿された現代美術家・村上隆のYouTubeチャンネル、その2本目となる動画。「脳内分泌物のエクササイズをしてもらえたらなと思っております」というフレーズが飛び出す軽妙な(?)マナーで語られるのは、トレーディングカード、ふるさと納税、日本にとっての現代アートといった話題たち。

村上は京都市京セラ美術館で2月から始まる大規模な個展を控えている。ある種そのプロモーションといった趣きのあるこの動画では、“美術館での展示にプロモーションが必要となってしまった国内アートの現状”(大企業による資金援助があったバブル期との比較)が確認される。展覧会には作品の輸送や保険などのコストがかかるため、それを賄う資金調達の手法として今回村上が取り組んでいるのがふるさと納税だった。京都市へのふるさと納税に設定された返礼品が展覧会チケットや村上デザインのトレーディングカードとなっている

要するに村上にとっては資金調達のためのトレーディングカード制作だったわけだが、結果的には積極的な意義もあったと結論づけている。「国内では拝金主義と批判されることもある資本主義的なアート市場を日本に導入する緩衝材にトレーディングカードがなってくれている」(大意)というまとめは、オタクカルチャーと現代アートの両面から見て現代的な事象だなあと感想をもった。(太田)

「本や街」とはリトルプレス関連の即売イベントで、「小さなまちの本の催し」というタグラインがついている。妙蓮寺駅(東急東横線)の近辺に位置する複数のサイト(古民家やシェアオフィスなど)が会場となっており、自宅の近所だったので覗いてきました。なかでも地域性が強く匂い立つZINEが目を引いた。地元・横浜のものもあれば、京都や長崎のものもあった。ひともたくさん来ていてびっくり。

このあたりでリトルプレス界隈の中心的な役割を果たしているのが、このイベントの主催団体にも名を連ね、また会場のひとつにもなった生活綴方という独立系書店。そこの方が独立系書店の全国的なネットワークに繋がっているようで、イベント自体も盛岡の書店による企画を範としているそう。遠方から出店者を募っているのもそうした背景があるのかも。付け加えると、生活綴方は近隣のクリエイティブ民にとってちょっとしたコミュニティスペースになっており、リソグラフの印刷機があったり、店舗裏にある畑をみんなで手入れしていたりする。(太田)

デヴィッド・グレーバー由来(?)のアナキズムブームの余波なのか、「だめ連」の振り返り本が出た。だめ連は、介護労働やバイトなどをしながら、集まってダベったりイベントをやったり、オルタナティブスペースを運営したりインディーメディアをつくったり……といった活動を続けてきた。その活動は30年に及び、著者のひとりのペペ長谷川氏は昨年2月に亡くなっている。本書はかなり分厚いが、全編が2021年から2022年にかけて収録した対話や座談会で構成されているため、読み進めるのは簡単。Twitterでわちゃわちゃやっている「だめライフ」や中国の「寝そべり族」など、最近では微妙に似たような主張の運動が出てきており、それらへの言及や直接的な交流の様子なども書かれている。(瀬下)

加速主義周辺の受容が変わってきたように感じる。人文・思想系の媒体ではあまり目にしなくなった反面、WIREDをはじめテック系の媒体ではさかんに紹介されるようになったような。効果的加速主義や効果的利他主義、あるいは、それらと関係しつつ距離をとるグレン・ワイルのPlurality(多元主義、複数主義)など、いろいろなタームがある。このnote記事では、これらの概念の流れや関係が手際よくまとめられている。著者のナカジ氏はベンチャーキャピタル・ANRIで働いているという背景情報も含め面白い。(瀬下)

読書会で読み始めた本。社会学者を中心とした複数著者によるアンソロジーだが、「コミュニティ」概念の言説史を概観する序章が勉強になった。「コミュニティ」という語は自分もわりとラフに使いがちだが、ちゃんとした原稿で使用する際などはいつも少し不安になる。この序章の議論は、「コミュニティ」自体の学術的な位置づけを整理するだけでなく、「コミュニティ概念が実際にどう用いられてきたか」というメディア環境への批評的な目配せも用意されていてありがたかった。(松本)

たびたび取り上げている韓国VTuber、ステライブの藍璃かんなの初ソロコンサートが1/27に開催された。動画は当日の公演からクリップされた1曲。イセドルに比べて日本のVTuberのライブ表現により近いように感じる。実はまだ全編しっかりチェックできていないので、視聴後にまた改めて書きます。軽く調べたところ、日本のクリエイターも制作に関わっているらしい。(松本)

🔗オマケ

📒編集後記

  • 年末年始は確定申告作業をだらだらとやってました。それと並行して視聴していたのが、一年をふりかえるという趣旨の企画の配信。なかでも「2023年の建築・都市本をふりかえる(+建築展もすこし)【ゲスト:磯達雄】」「第7回歌舞伎町のフランクフルト学派 かぶー1グランプリ2023」が面白かったです。(太田)

  • 遅ればせながらティアキンをクリアした。モノをくっつけたり動かしたりする遊びは楽しいけど、終盤には飽きてしまいゴリ押しで終わらせた感じ。ストーリーはゼルダ好きだから楽しめたけど、それ以外の人にとってはどうでもいいかもしれん。自分の話としては、引き続き調子が悪い。クッソ低い生産性を社会人10年の経験でギリギリ振り分けて、毎日を綱渡りのような感じでやっています。やってらんねー。(瀬下)

  • 私事かついきなりで恐縮ですが、2/2に入籍します。自分が名字を変えることになったのもあり、いろいろ調べることがあってややバタバタ気味です。良い意味で特に何も変わらないと思うので、これからもよろしくお願いします。(松本)

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  ここに入りきらなかったURLを貼ったり、ゲーム制作の進捗を報告したりするDiscordをやっています。気になる方はコチラからぜひ覗いてみてください。(瀬下)  

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