SF作家・津久井五月の1月のインプット|ecg.mag #19

清水亮のAI論、こたけ正義感の漫談ライブ、近藤亮太のホラー映画
enchant chant gaming 2025.02.01
誰でも

ecgの太田です。

2025年の一本目ではSF作家の津久井五月氏にゲスト寄稿をいただきました。ecgメンバーは氏とは仕事でもプライベートでも長らくお付き合いさせていただいています。わたしたちのボドゲ第一作『香感覚』についても、その最初期に開発関連の作業やテストプレイをごいっしょしてくださいました。

今回はAI、漫談、ホラー映画と幅広いトピックを取り上げていらっしゃいます。津久井氏のインプット記録をもっと読みたい! という方にはこちらのFANBOXをおすすめしたいです。毎月届く膨大なインプットのメモに、わたしも日々刺激を受けています。

🌐今月のトピック紹介

最近はあまり見なくなっているX(旧ツイッター)を開いたら流れてきたので、なんとなく読んだ記事。

僕は普段、生成AI関連のトピックを熱心に追ったりはしていませんが、この記事中で語られるOpenAI「ChatGPT o1」の圧倒的な能力(および著者の圧倒的なプログラマー賛美)に対して「実際どんなもんなんだろう」と素朴に関心が湧き、とりあえず月3000円ほどで使える「ChatGPT plus」というプランを契約してみました。このプランでは記事に登場する「o1 pro mode」は使えないし、そもそも僕はプログラマーではないので、著者の言葉を検証することはできません。とはいえ、仕事のためのアイデア練りにChatGPTを利用してみる中で、「たしかにこれは破壊的なツールかもしれない」と感じたのも事実です。記事とはだいぶレベルの違う話ながら、ChatGPTには「自分が○○の知識やスキルを身に着けてきたからこそ、こいつを使いこなせるんだよなぁ」と良い気にさせてくれる力がたしかにある。こちらが上手く議論の軸を定めて誘導できれば、AIとのやり取りを通じてアイデア検討のスピードを何倍にも加速できるという感触があります。

でもまあこれって、気の合う仕事仲間や相談先がいない個人事業主がそういう相手を見つけた、というだけの話かもしれません。僕は現状では、AIに仕事(たとえば小説)のアウトプットまでは(品質的に)任せられないし、(道義的に)任せるべきじゃないし、(意地の問題として)任せたくないと思っているので、この記事の著者のようにAIをガッツリ使いこなす人々にどんどん水をあけられていく側なのかもしれない。エンジニアもクリエイターも、地球上のどこかにあるデータセンターで電力をガンガン消費してCO2をガンガン排出しながら、AIの生み出すアウトプットで殴り合う時代が来るのかもと思うと、ちょっと気が遠くなりますね。(津久井)

現役弁護士でお笑い芸人のこたけ正義感氏による漫談ライブ。公演自体は去年の夏ですが、今年1月前半にYouTubeで無料公開されていて、だいぶ話題になっていました。

前半では弁護士あるある(一般人にとっては「ないない」)を織り交ぜてゆるめに笑いを取り、その中に散りばめた要素を後半で生かすことで、袴田事件のようなシリアスな題材を話芸として観客に飲み込ませる、というような内容。今のお笑いって全般的に、言葉遊びや特殊設定によってシチュエーションが現実から遊離・逸脱・自律していく感じを楽しむネタが多い(または強い)ような気がしているのですが、「弁論」は刑事事件や法曹の世界と一般人の感覚のズレをいじり続けた末に(そのズレが歪んだかたちで表面化した)現実の冤罪事件に着地する。いわば「遠い世界への冒険」ではなく「近い世界の異化」を目指しているように見えて、なんだかSF的にも興味深いものでした。

専門的な知識や仕事を持ちつつ表現活動にも片脚を置き、近い世界を異化するようなエンタメを作るというスタンスには、(実際にこたけ氏がそんなスタンスなのかどうかはともかく)個人的にかなり共感するので、「弁論」があちこちで話題になっていることを勝手ながら嬉しく思いました。(津久井)

KADOKAWA主催の「第2回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞した若手監督の長編映画デビュー作。

急に生煮えの持論を挟みますが、昨今の日本のホラーコンテンツには、①怪異の実在をほとんど疑わずに前提として扱うこと、②事の真相を充分に開示せず視聴者/読者に考察を求めること、③記録・伝達媒体が持つリアルな質感を利用すること、といった傾向・流行があるなと思っています(フェイクドキュメンタリーの場合は①の要素を薄めにしてミステリー、ヒトコワとして解釈できる余地を残すケースも多いが)。近藤監督が演出などで参加しているらしいテレビ東京の「TXQ FICTION」シリーズや、それと制作陣が重なっているYouTube上の「フェイクドキュメンタリーQ」は僕も以前からちょこちょこ鑑賞してきたものの、①と③はともかく②のスタンスが原因であまり好みには感じていませんでした。視聴者に委ねている(というか頼っている)部分が大きすぎる気がするからです。

「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」もその傾向ど真ん中という作りで劇映画としてはかなり不完全燃焼に感じましたが、怪異の実在を最初から前提とすることで虚空を映すシーンが常に不穏になる効果だったり、ガチャガチャに乱れた昔のビデオテープの質感を使った異界表現だったりと、ゾクリとさせる工夫はかなり良かった。今の文脈をふまえつつ「日本ホラー映画のど真ん中」を設定し直そうとしているような、なんだか真面目な雰囲気の作品でした。(津久井)

太田が日頃からお世話になっているカードゲームコミュニティの書記長が記した、合宿の記録。2-3泊程度の合宿が毎年行なわれ、夏と冬の2回で定期開催されている。わたしも何度か参加した経験があり、参加のたびにカードゲームのモチベが高まる。(ただし今回は不参加でした。)

ゴシドラと呼ばれるこのコミュニティの特徴は、リミテッドを推していること。「リミテッド」というのはカードゲーム用語で、パックを開封しながら遊ぶ方式を指す。対になるのが「構築」方式であり、プレイヤーが事前に組んだデッキを用いて対戦するものだ。TCGと聞いてまっさきに思い浮かぶ遊び方は構築戦のほうかと思うが、世の中にはリミテッド愛好者も多数いる。そんなリミテッドはつぎの3要素から成ると理解できる。①どんなカードがパックから排出されるかという運要素。②排出されたカード群のなかからどんなデッキを組むか、という限定構築の妙。③概してプレイングによって勝敗が決しやすいこと。③は諸説あるにせよ、デッキ選択や構築の中身、あるいは特定のパワーカード/高額カードのたぐいに課金しているか否かといった、構築戦における資産の差が表面化しづらいことは事実だろう。世のリミテッド巧者たちは、運要素によって均される平等主義を受け入れつつ、自らのプレイングに左右される実力主義を楽しんでいるように見える。

この記録記事によれば、今回の合宿ではワンピースカードでキューブドラフト(リミテッドの一種)が実施されたという。わたしの知るかぎりワンピカの運営においてリミテッドはサポートされていない。つまり、ここでは非公式の遊び方が開発されているわけだ。思えば、MTGの多人数戦も草の根で始まったのちに公式へと取り入れられた遊び方だった。で、ゴシドラの人々はそういうこと(いろんなTCGでリミテッドを遊んでみること)を日々行なっている。こうしたコミュニティの情熱はすばらしいと思う。

もうひとつ記事内で印象的だったのは、「余談」とそっけなく記される所感。ここでは加齢に伴う「ゲーム力の衰え」が問題化されており、それに抗ったり受け入れたりする向き合い方が言語化されている。マインドスポーツにはいつまでも取り組めるかと思いきや、そうでもないのかもしれない。読者諸氏もぜひこの観点で当該記事を読んでみてほしい。(それと同ブログ内のおすすめ記事も貼っておきます:「24/2/22 マジでカードゲーム強い人たちにマジで強くなる方法聞いてきた」)(太田)

スト6における強豪ジュリ使いでストリーマー、べてぃちゃんこと桃井ルナが、昔からやってる格ゲーおじさんたちを6先×3セットで破壊する(してきた)企画「おじHUNT」。貼ってるURLは、それを同じく格ゲーマーのなるおが同時視聴したものである。今回のハント対象は伝説的なバーチャファイターのプレイヤー・大須晶。なるおのガイドもあって、あんまり格ゲーがわからなくても、大須のボタン押しすぎな野性味溢れるプレイと読み合いの強さが伝わると思う。攻略や環境が煮詰まれば煮詰まるほど、独自のスタイルでゲームを遊ぶ人の価値は(競技シーンで活躍するかはともかく)高まるなあと思う。ちなみにイキり散らしている「豪傑の真実」も最高。ヒマになったら格ゲーの有名なドキュメンタリーをまとめる記事とかつくりたいが。(瀬下)

昭和を工業の時代と捉えたうえで、日本は未だそこから脱却できないままだと考える。この前の五輪はもちろん、今度の万博における空飛ぶ自動車や月の石など、ノスタルジーの狂いっぷりたるや……というわけで、2025年は昭和100年なのであるっていう。いろいろ書いてある本だけど、白眉なのは幕間として書かれた2045年(戦後100年)の未来予測。とくに細部がよくて、介護職の広がりや安楽死を肯定するロジックはマジで日本っぽい。還暦を迎えた二宮和也がドラマで東條英機を演じるとか、104歳の柄谷行人や100歳の櫻井よしこ、95歳の中沢新一が勢揃いするなど笑える箇所も多い。(瀬下)

ディズニーをテーマにしたカードゲーム『ディズニーロルカナ』。海外では2023年から発売され、今月ようやく日本語版が登場した(販売はタカラトミー)。記事は太田くんがKAI-YOUでタカラトミーの担当者にインタビューしたもの。

このゲームはマジックザギャザリングをベースにしつつも、複雑なルールや事故要素が取り除かれており、初心者でも遊びやすい。たとえば、マリガン(最初の手札の引き直し)が容易になっていたり、マナコストが土地カードではなくキャラでまかなえたり(デュエルマスターズ的な仕様)、自分のターン中に相手から妨害されなかったり(ポケモンカード的な仕様)。

また、カードイラストも非常に魅力的。ミッキーやアリエル、スティッチなどおなじみのディズニーキャラクターたちがそのまま登場し、劇中の挿入歌もカードとして使えたりする(「歌」カードという特殊なアクションカードが用意されている)。

ガチ対戦カードゲーム×強力IPという組み合わせは明らかに最近ブームになっている。ポケモンカードやワンピースカードはもちろん、最近だとホロライブもカード化された。昔だと有名IPのカードは単なるファングッズみたいな感じでゲーム性が乏しかったが、今挙げたものはいずれもかなり本格的なルール設計になっている。今回のロルカナもその流れを汲んでいると言えそう。ディズニー好きはそれらのターゲット層と絶妙に重なっていない感じもするので、ロルカナからカードゲームを始めるという人も多いのではないか。かくいう自分も結構ハマってしまって、小学生ぶり?ぐらいにカードを買ってデッキを組んでしまった。マジックもポケカもハマらなかったけど、ロルカナは遊び心地がライトで面白い。興味ある人がいたらぜひやりましょう。(松本)

年末年始はひたすらAIツールをいじり倒していた。自分はプログラミングがまったくできないが、ClaudeやChatGPTに「こういうことやりたいからコード書いて」とお願いすると、その通りにコードを作ってくれる。確定申告用にメールで届いている領収書を一括でPDF化するスクリプトをGASで書いたり、タスクを入力すると勝手にGoogleカレンダーに作業予定を割り振ってくれるようなツールを作ったりした。非エンジニア的には、こういうちょっとした省力化・自動化を実現できるのは嬉しいし、「自分でもこんなことができるのか」とちょっと感動する。

その勢いで、前から気になっていたAIツールの「Dify」にも手を出してみた。これはすごい簡単に言うと、「AIをいっぱい連結させて複数の処理を行えるツール」みたいな感じ。たとえばリサーチ業務なら「資料を検索する」、「検索したものをリスト化していく」、「それらに簡単な解説をつけ、ドキュメントにまとめる」みたいな工程があり、いままでは個別の工程ごとにAIを使っていた。そこでDifyを使うと、「まずはAというAIに資料を検索させる」「その検索結果をBが受け取り、フォーマットに則ってリスト化する」「そのリストをCが受け取り、要約を作らせる」「その要約をDが受け取り、ドキュメントのフォーマットに成形する」みたいな処理をノンストップで実行できる。超便利。

Dify自体はノーコードで使えて、miroやfigmaみたいなホワイトボードツールと同じ感じで直感的に操作できる。AIを繋げてワークフローを作るのは単純に楽しい。ただ、フォーマットの指定などに少し時間がかかるのは事実なので(普通に人間に指示するのと同じ)、「繰り返し行う必要がある作業」に絞って自動化するのがおすすめ。検索ワードを入力しただけで所定のフォーマットでドキュメントが吐き出されるのは結構感動する。URLは、Difyについて非エンジニア向けにわかりやすく解説されている記事で、たいへん参考になった。(松本)

🔗オマケ

📒編集後記

  • じつはKAI-YOUでディズニー・ロルカナ関連の記事を2本書きました(取材・執筆と執筆協力)。松本も今月のトピック紹介欄で触れてくれていますが、ひとつは販売元のタカラトミーの方々へのインタビューです。もうひとつは遊び方ガイドです。12月に書いてたものがようやくリリースされたので、ぜひ読んでみてください。そしていっしょに遊びましょう~~(太田)

  • AI関連のリリースっぽいニュースを見ていると、ちょうど10-15年前にSNSのようなサービスが雨後の筍のように出てきたころを思い出す。できることが都度明確に増えるから、つい使ってみてしまいますネ。(瀬下)

  • 次の数年で取り組みたいテーマが徐々に固まってきて気分がいいです。ゲームもいっぱい遊べてるし、人生が前向きな感じがする。(松本)

***

ここに入りきらなかったURLを貼ったり、ゲーム制作の進捗を報告したりするDiscordをやっています。気になる方はコチラからぜひ覗いてみてください。(瀬下)  

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