ゲスト寄稿者・柑橘氏による宇宙ものへの偏愛|ecg.mag #16

宇宙空間を彷徨いながら酸素ボンベの残りをみて絶望したい!
enchant chant gaming 2024.10.31
誰でも

ecgの太田です。

今号のゲスト寄稿者は、5月号にも登場してくれた柑橘氏が再登板となります。今回は『Outer Wilds』というビデオゲームと『君と宇宙を歩くために』という漫画にかんする原稿2本をちょうだいしました。「宇宙もの」つなぎのセレクトでしょうか。前者についてはじぶんも以前から気になっているなか積みゲーと化していますが、ようやく崩すときか?! と思わされます。

さて、柑橘から聞いたこぼれ話ですが、この世には「Outer Wildsゾンビ」とでも呼ぶべき人々がおり、同タイトルの配信に新たにとりくむ配信者のもとにわらわらと這い出てきては、コメ欄でアドバイスしたりアドバイスをにおわせたりするそうです。というわけで、攻略に詰まったらTwitchやYouTubeで「◯◯がわからない!」と叫んでみるとよいかもしれません。きっと柑橘みたいな人たちが教えてくれます。

🌐今月のトピック紹介

惑星系最後の22分間をくり返すタイムループの謎に迫る宇宙探索アドベンチャー。

の、DLCを含めた移植パッケージ版(PS5/Switch)が発売しました。2020年発売のインディーゲームなので、話題としては古い紹介となりますが大傑作です。ゲームでしか不可能な謎解きを味わえます。

独りぼっちで宇宙空間を彷徨いながら酸素ボンベの残りをみて絶望したい!!!!母星をみながら外宇宙に飛び立ってラジオの電波を受信しながら「どうにもならね~~~」と諦めたい!!!!!謎の惑星の洞窟探検してたら迷子になって閉じ込められたい!!!!!!!!

人生の夢、3ついきなり叶っちゃったな~~と思えること間違いなしです。

ネタバレだけは絶対に踏まないように、最初のタスク、スペースシャトルのコードの受け取りは道順に進んで山の上の博物館の二階で出来ます。僕が書けることはこれしかありません。宇宙をどこに向かって歩くかは自分次第で、どんな選択もひとつの問いが導いてくれるはずです。(柑橘)

「マンガ大賞2024」受賞作。誰かの当たり前が当たり前ではない、普遍的なよくある小さい落胆が読者に反射してくる作劇の上手さが染みます。

まだまだ作中の世界が広がっていく作品であり成長の物語ですが、上手く変われることが成長とイコールではないことを主題にしているように読めています。同時に、変わることが成長のいち要素であることも否定していません。そのうえで自身の変われなさ、あるいは他者の変わらなさとどのように付き合っていけるかが問いなのだなと思う次第です。

突き詰めると、疎外(國分功一郎の「本来性なき疎外」)がいつどんな人にどのように起きているのかを入念にチェックして、その人物が無邪気な悪意に晒されたとき、あるいは意地悪になってしまった心を優しく丁寧に底意地が悪く読者に共感させる準備がしてあります。

宇宙ものが好きで話題作ということもあり手に取りましたが、宇宙は大きく関係ありません。現在3巻で連載中なのでまだまだ追いつけます。(柑橘)

毎日メールボックスにPeatixから届くイベント情報を眺めていると、佐野和哉(さのかずや)氏のお名前を見かけた。トークの内容も芸術祭関連だったので気になり、アーカイブ視聴しました。近年の佐野氏は札幌国際芸術祭のお仕事を精力的になさっているようです。本イベントのもうひとりの登壇者は編集者/ライターの葛原信太郎氏で、フジロックフェスなどに携わられているとのこと。「話す人」(佐野氏)と「話に付き合ってくれる人」(葛原氏)という力の抜けた二つのクレジットがなんだか素敵です。

イベント内容は、アルスエレクトロニカとヴェネチア・ビエンナーレへの視察に行かれたお二人が、そこで見聞きしたものをざっくばらんにふりかえるというもの。個人的には他人の旅行の話を聞くのが好きなので、それだけでも栄養になりました。これまであまり意識してきませんでしたが、メディアアートで高名なアルスエレクトロニカは1979年に始まったとのことで、すでに45年間の歴史があるんですね。組織としてのアルスは常設のセンターをもっているため、イベント会期中だけのものではなく、リンツの街に根付いているというお話が印象に残った。

話し手たちが欧州の二つの芸術祭を比較するなかで、浮き彫りになってくること。それは、テック産業と近しいメディアアート(業界?)の楽天性と、それとは対照的な近年の美術(業界?)の批判的な政治性だったようです。2024年のアルスエレクトロニカ・フェスティバルは「HOPE」と題されており、人工知能に関連した作品が多かったと言います。他方でヴェネチアのほうは脱植民地主義やマイノリティ関連の作品がやはり目立っていた。おおざっぱにはそんなトーク内容だったかと思います。(太田)

今月はAmazonのセールがあり、久々にいろいろガジェットを買った。来年は仕事を休んで配信でもやろうと思っているから、まずはキャプチャーボードやマイクアームをゲット。そして、それに合わせてデスク周辺のレイアウトを変更が必要になるので、収納グッズを買った。

こういうガジェットを買うとき、ぼくはまずGoogleでニュース検索をし、なんとなく定番の商品を把握する。次にYouTubeでそれらを比較している動画を見て、なにを買うか決める──自分と同じような買い方をする人であれば、この動画に出てくるYouTuberを見たことがあるかもしれない。

このコンテンツが(ぼくにとって、ある観点において)面白いのは、彼らが自分たちの素を見せたい気持ちを持っていること、その表現手法としてグループYouTuberのフォーマットが採用されること、そして、その素なるものが思った以上にオトコノコっぽいノリであること。最近、スマブラ関連のストリーマーがand moreというゲームと関係ないグループYouTuberを始めたのだけど、わりと似た方向性かもしれない──どうでもいいが、先のガジェットYouTuberたちもスマブラをかなりやり込んでいるそう。

と、ひとまず書いてみたが、なんでこういう動画を見ているのか、あんまりうまく語れない。要するに、同世代前後5歳くらいの人たちの身体性(や、そこから感じ取れる政治性)に思いを馳せたいってことなんだけど。(瀬下)

スマブラのプロプレイヤー兼ストリーマー・あばだんご氏が、キャリアに区切りをつけたことを発表するとともに、これまでの軌跡を回顧したnote記事。

彼はスマブラ界隈において、その実績や人気もさることながら、パイオニア的な仕事をしたことでも知られる。とりわけ前作のスマブラ for Wii U時代において、任天堂タイトルの競技シーン特有の難しさに直面しながら、プロ化の道のりや方法論を試行錯誤しながら確立させていった点はあまりにも重要だろう。

自分自身は、最新作であるスマブラSP──といっても発売から7年が経過している──から競技シーンをみるようになった。その時点では、あばだんご氏以外に日本のスマブラプロは多くても10名弱ほどだったと思う──いまは数え切れないくらい、テキトーだが50名くらいいるんじゃないかしら。詳細は記事を読んでほしいが、彼の発売直後の発信活動が、現在までの発展につながる大きな要因になっている。

ところで、ぼくの心に響いたのは、上記の内容とはあまり関係ない。業績はもう知ってることだし。むしろ、働こうと思ったきっかけについてサラッと触れている箇所だ。曰く、彼女との3年間の同棲生活を解消し実家に帰って将来について考えた、たまたまバキ童と土岡がニート生活について話している動画をみて効いてしまった──。打ち消し線を使って書かれたその2文は、彼らしい皮肉と諧謔とともに、ひとりのアラサープロゲーマーのリアリティを伝えている(あばだんご氏は93年生)。

以前から冗談なのか本気なのかわからないテンションで将来の不安を口にし、日商簿記2級までコツコツ取得してみたり、麻雀のプロライセンスをとってみたり。次の展開を模索するような活動を数年続けた彼の結論は、自身のプレイスタイルと同じくらい堅いものだった。趣深い。

なお、このnoteについてはKAI-YOUで記事が出ているので、きちんとしたプロフィールなどはそちらを参照してほしい。シーン目線での解説はこちらの動画が(異様に)詳しい。(瀬下)

ソロ登山YouTuberのMARiAさんという方が、モンブランを単独で縦走した際の登山Vlog的なもの。最初は天気良くて一面銀世界できれいだな~という感じなのだが、途中から徐々に雲行きが怪しくなっていく。山場の雪壁をピッケルで登る場面は、本当にリアルな死の恐怖が伝わってきてかなり怖い。後編の落石シーンもめちゃくちゃ怖い。登山をしないのでリアリティが全然わかってなかったけど、小石でもこのスピードで飛んできたら普通に身体吹っ飛ぶし、足を一歩でも踏み外したら死んでしまうようなところでの落石は避けようもない。たしかにこれは超危険だわと納得できた。にしても、こういうものを映像で疑似体験できる時代になったのだなあとしみじみ。TAKEMOVIEさんの「壁キャン」もそうだが、ここ数年の機材の進化もあいまって、個人撮影の動画の可能性はまた一段と広がったように思える。前澤さんの宇宙Vlogとかもすごかったもんな……(松本)

QuizKnockの動画をきっかけに言語学オリンピックに興味を持った。言語学オリンピックとは、「未知の言語を分析する能力を競う日本国内の大会」で、「アジア太平洋言語学オリンピック(APLO)および国際言語学オリンピック(IOL)に出場する日本代表選手を決定する予選大会の役割も兼ねている」とのこと(出典Wikipedia)。

マイナー言語をいっぱい知っていなければいけない知識テストなのかと思っていたが実際は違っていて、どちらかというと「与えられたヒントから未知の言語を読み解くパズル」みたいな感じ。パズル自体も楽しいけど、いろいろな言語の特徴に広く浅く触れられるのも知的好奇心が満たされて楽しい。本来科学オリンピックは高校生までの学生にしか参加資格がないが、日本の言語学オリンピックの予選はオープン枠として全年齢が参加できるようになっているらしいので、さっそく申し込んでみた。大会は12/29で、オンラインで参加できるらしい。上位1/18に入ると金賞がもらえるらしいのでがんばりたい。リンク先はサンプル問題なので、気になった方は見てみてください。(松本)

10月22日にリリースされたClaude 3.5 Sonnetのアップデート版。今までは前のバージョンである3.0 Opusの方が3.5 Sonnetより優秀だと思っていたが(特に自分がよく使う日本語作文能力について)、今回のはすごかった。話題になっているPC操作はどうでもよいのだけど、要約力と図解能力がすごい。これによって科学・数学系トピックについての説明力がかなり上がっていて、とりあえず片っ端から、自分がいまいちよくわかってない数学の概念について教えてもらったりしていた。こっちの理解度に合わせて作図をアレンジしてくれるのが感動的。Sonnetでさえこのレベルなら、Opusはどうなってしまうのだろうか。(松本)

音楽、アート、映画制作、法律と、まったく異なる分野のことを学んできた著者が、「好奇心旺盛だが飽きっぽい人はどうキャリアを作っていけばいいのか?」について考えた本。スペシャリストでもゼネラリストでもないマルチポテンシャル(複数の準-専門性)というカテゴリを無理矢理つくることで、飽きっぽさを肯定しようとする理路が面白い。そのなかでもさらに、同時に複数のことをやるタイプ、ハマっては飽きを繰り返すタイプ、など細分化がなされていく。自分もそうだがこういう人は実際にたくさんいそうだし、しかも適切なキャリアを見つけるのが難しく、いい感じの指南書もない。大学生のときに読めたらよかったなあと素直に思った。(松本)

🔗オマケ

かわいい加速主義(松本)  

📒編集後記

  • われわれの生のかけがえのなさは、それが有限であるという事実に支えられている」という主張の人文書を読みました。マーティン・ヘグルンド『この生』がそれでして、冒頭の一文は同書に対する星野太氏の書評からの引用。おすすめです。(太田)

  • 配信はここここでやるつもりなので、見たい人は登録してください。中身は雑談とゲーム。次年度まではそれほどできないと思うけど。(瀬下)

  • 大きな仕事が諸事情でひとつなくなってしまい、ぽっかりと時間が空くことに。それに伴い、ここ数年のクライアントワーク中心の仕事スタイルに飽きてしまったので、自分起点の発信を増やしていこうと思っています。(松本)

***

ここに入りきらなかったURLを貼ったり、ゲーム制作の進捗を報告したりするDiscordをやっています。気になる方はコチラからぜひ覗いてみてください。(瀬下)  

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