円熟期のVTuberシーンを覗き見る|ecg.mag #20

ecgの松本です。
今月は約半年ぶりに登場の砂丘氏にゲスト寄稿をいただきました。最近若干VTuber離れしつつあるなかで、最新かつ質感あるトピックを教えてもらえるのはありがたい! 相変わらず、レビューを超えて単体のエッセイとして読み応えがあるのもすごいっす。
※今月は体調不良により太田はお休みします。
🌐今月のトピック紹介
にじさんじ若手女子マイクラ鯖・Minecraft hololive Server New World!と近接ボイスチャット
一ヶ月という長いようで短い括りがあっても、VTuberに関するニュースを拾い始めたらきりがない。去ることを決めたひとや、新たに現れたひと。ひとつの配信のなかで巻き起こった小さな事件や、名の知れた企業による信じがたい失態。今月もさまざまあったけれど、特定の活動者に絞らず、雑多に配信を追っている人間が日々の視聴を素朴に振り返ったなら、「二月はマインクラフトの月だった」という感覚が、多少なりとも残るのではないか。その直感は、「にじさんじ若手女子マイクラ鯖」と「Minecraft hololive Server New World!」に関連する配信が、昼夜問わず多くのときに並行していたことに依る。
今月に初の著書『ゆるゆる古典教室』の刊行も発表された栞葉るりによって起案された前者の企画では、2022年以降にデビューしたにじさんじの女性ライバーの多くが、新たに設けられたサーバーに集って交流を深めている。若手が自分たちのために新しいサーバーを作る流れは、「ヒーローサーバー」や「3SKMサーバー」などにも見られていた。対して、事務所の中心となるサーバーが新設された後者はホロライブの全メンバーが参加対象であり、長らくマインクラフトから遠ざかっていた者も含めて開拓が進められている。いずれも飽和状態に達した場所から新天地へ移っているところに、一種の文化的な円熟を感じられるが、注目したい共通項はもうひとつある。それは俗にいう「近接ボイスチャット」が、両方のサーバーにおいて浸透している点である。
ゲーム内のキャラクター同士が近づけば声が届き、離れれば遠のいていく、現実を模したその機能に私が初めて触れたのはProject Winterの配信上だったと思う。以降はRustやGTA5の配信を経て馴染みのものとなった。両事務所の最近のメインサーバーの状況はあまり追えていないが、これほど賑わっているマインクラフトの配信において近接ボイスチャットが駆使されることは、私の記憶する限り、短期的な企画を除いてなかった。事前に通話のグループを組まずとも、ワールドで遭遇すれば会話が始まるため、これまで見られなかった交流・関係が偶発的に生まれていく様子を楽しめることが大きな魅力だろう。しかし私にとって、この機能は、平面的な世界に奥行きを生むものとして特別だった。
液晶から脱せない者たちは、同じようにステレオからも逃れられない。二次元と三次元の消えない境界を、3Dの身体が視覚的にうやむやにするのと同じような役割を、近づき遠のいていく声も果たす。一時的に離席したときの、オフマイクの声に比べれば、近接ボイスチャットの声はゲーム内のアバターと紐づいた仮想的なものにすぎない。けれど、仮想的なのはもともとである。何よりも声や言葉を、その存在を担保する重要なものとして捉えているからこそ、ただ声が大きくなり、小さくなっただけで感動するのだと思う。ワールドのどこかから声が聞こえ、居場所を探してひとしきり会話したあと、別れの挨拶が減衰していく。そんな当たり前の光景が、マインクラフトという慣れ親しんだ環境下で日々生まれていることが、私にとっては喜ばしい。(砂丘)
いつか月ノ美兎は「毎回が賭けのようになる生配信に対して、動画の制作は自分に対する納得感が大きい」と言っていた。その「賭け」には、視聴者も参加している。生配信は、常に多少の緊張感を漂わせながら、それ相応の高揚や、あるいは心寂しさに対する癒やしをもたらしてくれる。対して事後的な編集が加わった動画には、時間が隔たり、操作されたぶんの安心感がある。だから私は、ひとりの食事や食器洗いの最中、髪を乾かしているあいだに、短くまとまったVTuberの動画を気分次第で流している。言わずもがな、次元の隔たりも安心に繋がるのだ。そんな生活の折々で、このごろ頻繁に視聴しているのが敷嶋てとらのチャンネルである。
愛読書だという『1984』の影響下でディストピアに在住している彼女の動画は、たしかに退廃的な空気も漂っているが、案外呑気に街を散歩したり、酒を飲んだり、企画を組んだりしている。むろん深刻さはなく、散歩の場所のチョイスや企画の内容に関しても、あまり突飛なことはしていない。その、興味が赴いた先にあるものを淡々と記録するような様子が、現実から少し位相のずれた場所での生活を感じさせる。そして、その温度が私の毎日にも調和している。
個人的に興味が惹かれたのは、現実世界のVlogと並行して今もなお、VRChatのワールドを訪ねる動画を投稿している点である。銀座や、蔵前や、赤羽を歩くのと同じように、仮想空間の九龍城砦や、中銀カプセルタワービルを歩く。あるいは言葉のとおり非現実的に美しい神社や、廃墟のなかに佇む。そのような往還を通してのみ辿りつける場所があると、私は思う。それこそがディストピアなのかは判らないが、敷嶋てとらの居場所について考えをめぐらせていると、毎回の動画の最後にも流れているオリジナル曲「深更」の、ロキノン系を愛聴しているという彼女らしい自作詞の聞こえ方も、少しずつ変わってくるのだ。「開け放したドアの向こう 凍る街に私は立っている」。(砂丘)
ここ最近は(さすがに)いわゆるニュースっぽい話題というか、国内外の政治や経済の話が気になっている。自分が学生時代に少し勉強し、その後どうにかこうにか継続的にフォローしてきたトピックというのは、プラグマティズムとロールズ以降の政治理論の一部がせいぜいで、いずれも自由と民主主義は前提になっている──前提の問い直しや、違う見解に対する吟味はもちろんなされるけれども、まったくべつの結論が導かれたり、その結論を新たな前提として出発したりするということは、実際のところあまりないと思う。
いま、自由も民主主義も全力で退潮していきそうな気配があり、ぶっちゃけ時間を無駄にしたような気分である。思想的な意味でのアメリカ株を自分はいっぱい買っていて、今年になって暴落したというような。リンク先の配信では、そうした状況だからこそ哲学の仕事が始まるのだと勇ましい。4月からヒマなので、自分もいろいろ勉強して、気概を取り戻したいところだが……。動画は2時間あるけど、忙しくて、かつ内容そのものにのみ関心がある人は、最初の30分だけ見れば概ね問題ないと思う。(瀬下)
mizchi氏は文章が面白いので昔から読んでいる──エンジニアとしてどういうことをやっているのかは知識不足でよくわからないが。この記事も具体的なところは当然理解できない。ただ、読みながらVSCode上でCLINEを少し触ってみて、エディタにAIを統合しただけではなくて、ほかのアプリを立ち上げたり、環境構築したりするところまで勝手にやってくれることがわかった。より厳密に言えば、mizchi氏が書いているように、勝手にやりたいから許可を求めてくる。自分にとって面倒くさい部分を率先して頑張ろうとするので、いいかもしれない。以前は「ライティングや編集の効率化を図るために、AIをより効果的に使いたい」と思っていたのだけど、この記事を読んでから考えが変わった。そもそも書くことが得意なわけでも好きなわけでもない(読めばわかるだろう)。なんとなく始めっちゃったから、責任感みたいな感じで取り組んでいるだけだ。今年は仕事を休む以上、いろいろなツールで遊んでみたい。まったくべつの欲望が生じたら最高だなっていう。(瀬下)
この1ヵ月は仕事かロルカナしかやっていなかった。メルマガのためにYouTubeの履歴を見返したが、海外のロルカナYouTubeだらけで何の役にも立たない。本も読んでない。もう終わりだ。でも初めて本格的にカードゲームに触れてみて、良い趣味だなと感じる。カードやサプライを集める楽しさ、戦術や環境を調べる楽しさ、そして何より、TCGに熱中する人たちを知る楽しさ。やっぱり何にハマるにしても人から入ってしまう。ロルカナはまだ日本上陸して間もないので有名人とかはいないのだけど、令和の虎とかでも有名な元MtGプロのトモハッピー氏がロルカナを遊んでいて、雰囲気もわかりやすかったのでシェアしてみる。(松本)
おもしろいTCG人いないかなと思ってYouTubeをいろいろ探していて、サーニーゴ氏の大会Vlogを見つけた。ポケカの大会の仕組みをよくわかっていないのだけど、ただ対戦するだけじゃなく会場を動き回ったりもできるっぽく、お祭り感があって楽しい。世界大会編はさらに会場が豪華で、いい意味で浮ついた雰囲気がある。自分がポケカやってたら、この大会に参加したいからがんばろうと思うだろうな。そういう意味では文フリとかゲムマにも近いかもしれない(空間の感じもなんとなく似てる)。(松本)
🔗オマケ
📒編集後記
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ボドゲづくりの延長で、知育玩具をつくってみたいなと思っている。(瀬下)
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さすがに年度末忙しい。ロルカナもやりたいしボドゲもつくりたいし勉強もしたいし英語もやりたいし……という感じで仕事している暇はないはずなんだけど、、(松本)
ここに入りきらなかったURLを貼ったり、ゲーム制作の進捗を報告したりするDiscordをやっています。気になる方はコチラからぜひ覗いてみてください。(瀬下)
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