新作ボドゲ『顔フェイス』完成と文学フリマ参加|ecg.mag #17

文フリのecgブースは[N-35]です、遊びにきてね!
enchant chant gaming 2024.11.30
誰でも

ecgの瀬下です。今月ゲストはなしで、いくつか告知があります。

まず、ecgのボードゲーム第2作『顔フェイス』が完成しました。顔カードを組み合わせて、「ヤバい」を巧みに伝えるゲームです。

前作の『香感覚』と同じくパーティーゲームですが、だいぶゲームとしてこなれたと思います。試遊や販売後の反応などを見ても、評判は上々です。引き続きゲームデザインを担当する松本の学びがすごい。

また、いい感じに抜けててかわいい猫イラストは、yoko nakamaru氏によるもの。このイラストを使ったLINEスタンプもあります。チャットでも使いやすいと思うので、気に入った方はぜひ。

次に、太田さんの『PGSW: Flesh and Blood放浪記【+】』

このメルマガ内でも彼がよく言及しているトレーディングカードゲームFlesh and Blood。“Play the Game, See the World.”(ゲームをプレイし、世界を見よう。)を掲げる同作のプレイヤーとして、海外大会を旅する紀行ZINEです──本メルマガのハードコア読者であれば、7月にこの紀行文の一部を読んだことをおぼえているかもしれない!

『顔フェイス』についてはオンラインストアでも買えますが、ZINEのほうはまだ未定です。一番手っ取り早いのは、明日の文学フリマ東京39でゲットすること!

そういうわけで、ブースでは瀬下と太田さんで売り子をしておりますので、enchant chant gamingのブース[N-35]にぜひお越しください!

🌐今月のトピック紹介

誰もが知るあのIPをモチーフにしたトレーディングカードゲームがついに日本上陸……! それがディズニー・ロルカナ・TCGです。今回貼った動画は、商品の予約開始日の前夜である11月17日に公開された特番。来年2025年の1月に日本語版が発売とのことですが、本家となる英語版は2023年8月にリリースされたTCGです。かなり新しめのタイトルではあるものの、英語圏での競技大会が1000-2000人規模──わたしがふだんやっている比較的マイナーなTCGだと100-400人ほど──で何度も開催されるなど、凄まじい勢いで広まっている印象を受けます。日本へのローカライズはタカラトミーが手掛け、同社が販売するTCGとしてはデュエルマスターズが有名ですね。

日本語版発売の報を聞き、わたしも英語版で遊んでみました。各プレイヤーは魔法のインクでディズニーキャラクターたちを呼び出し、キャラクターをクエストに送り出すことで伝承の断片(勝利点)を集めるという目的をもちます。触ってみて、カジュアルゲーマー層にも遊びやすいゲーム性だなと感じました。相手のカードを打ち消すこともなければ、複雑な盤面の処理もあまりなく、ボードゲームの延長でやれそうです。つまり、シンプルなゲーム性(トップティアIPに期待されるカジュアル層への訴求力)をもち、それでいて一手一手の意志決定に対する報酬と罰がきっちり組み込まれています。このような戦略性なしには、競技大会で2000人を集めることはできないでしょう。

じっさいにロルカナで遊んでいるようすは、トモハッピーチャンネルの動画がわかりやすい。そうそう、動画内でも触れられますが、このゲームは一対一の通常ルールのほかに多人数戦もできます。しかも加点方式のため、誰かひとりが途中で脱落することはありません。ボドゲに近いわいわい感が楽しめそうです。1月からみんなでやろう!(太田)

Futuress(フューチャーレス)のエッセイが精選のうえ日本語へ翻訳されました。Futuressは「〈デザイン・フェミニズム・政治〉のためのオンラインプラットフォーム」というタグラインを掲げたもの。この取りくみについて、日本語で紹介しているテキストにはたとえば平山みな美「資本主義を再考するグラフィックデザイン」があります。今回のエッセイ集の翻訳は井上麻那巳氏が務め、100ページに満たないコンパクトな(文庫本くらいの判型)同書のデザインも、氏が手掛けているようです。とても素敵な書籍なので、現物を手にとる機会があればぜひチェックを。

内容について。個人的には巻頭の「おばあちゃんはサイボーグじゃない」に感銘を受けました。これは基本的にはインダストリアルデザインや建築による標準化がもたらす弊害を批判するエッセイです──「おばあちゃんは、標準化された寸法でデザインされた環境で一生を過ごした。/標準化された寸法は、白くて五体満足な西洋人男性のためのもの」(同書13ページ)。

そしてデザインのみならず、本エッセイはテクノロジーに内在する家父長制の批判までを射程に入れています。その道中の議論が興味深く、つぎのようなものでした。かつてハラウェイが「サイボーグ宣言」(1985)で家父長制からの解放を唱えたとき、そこでのテクノロジー像は白人的なテクノユートピア観に根ざしていた(という批判的読解の近年の研究があるもよう)。そのため、テクノロジーを解放の道具ではなく弾圧の道具として捉えなおす──シリコンバレーのBroカルチャーから生まれるスマートフォンは、女性の手にはおおきすぎるといった点も踏まえつつ──なかで、フェミニズムの観点からサイボーグ宣言を相対化する必要があるのだ、と。「わたしたちはサイボーグじゃない」。

著者は最終的には、家父長制や抑圧的なテクノロジーに対して日常的な実践として取り組まれるハッキングを言祝ぎ、この短いエッセイを終えています。その端的な例は、「Instagramのアルゴリズムによる検閲を受けないように、男性の乳首を自分の乳首にフォトショップ加工する女性たち」(23ページ)などですね。

ところで、いまやいろいろなところで見聞きされるようになったインクルーシブデザイン。これは当初は、ユニバーサルデザインの杓子定規な標準性に対するアンチテーゼのかたちで生まれました。その意味では、本エッセイひいてはFuturessの活動自体から生まれてきそうな家父長制批判的なデザインの潮流が、今後のクリエイティブ現場の風景を塗り替えることは十分にありえそうに思います。(太田)

おれたちは昔から広義の情報社会論、特に規範系のそれにはイライラさせられてきた! 金太郎飴のようにキャス・サンスティーンを引用し、集団分極化だのなんだの、SNSをやっていれば誰でもわかるようなことばかり言って、フェイクニュースもそりゃ問題だが、対策を具体的に考えること以外で論じて面白いことなんかあるか!? そもそもサンスティーン自身、最初のころはよかったけれど、行動経済学みたいな雰囲気が鮮明になってからはどうなの?って感じだし……。

──まだⅢ巻の『プラットフォームとデモクラシー』しか読めていないけれど、そんなおれたち(何人?)の気持ちに、(ある程度は)応えるシリーズだと言えそう。狭い意味での規範的な政治学・憲法学の議論に留まらずに議論していて、たとえばWeb3系の一部の人たちというか、要するにオードリー・タン的なもの、鈴木健的なものについてもベタに話題になっている──投票において1票に傾斜つけたり分割したり、政治過程にAI導入したりみたいなね。あと、宇野重規&若林恵のファンダム民主主義みたいな話とか。とりあえず全巻買って読むつもりなので、こういう本が好きな人いたら読書会しましょう。DMでもDiscordでもテキトーに連絡ください。(瀬下)

ストリーマーのSasatikk氏によるゲームアワードのノミネート作品紹介。この人に限らず、普段ひたすらゲームをやっているストリーマーがアワードを見るタイプの切り抜き動画はおもしろい。もうやったものについてのコメントはもちろん、まだやってないものであっても、次これやろうかな、買おうかなって視点があって楽しい。Sasatikk氏のこういう配信が特に優れているのは、世評みたいな概念がはっきりあるというか「一般的にはこういうことになっていると思う」っていう説明が入るので(概ね納得できる)見やすい。来年は格闘ゲームやそれに近いアクションゲーム以外もいろいろプレイしたいので、見たあとちょっと買った。(瀬下)

書評専門のオンラインジャーナル。同世代くらいの研究者が結構書いていて、全体的に率直な書きぶりの人が多いからか勉強になる。どうしても扱う分野に偏りはあるが──演劇と哲学が多い、そのなかでは散らしていこうっていう努力も感じられる。

最近とにかく自分がバカになっているように思えて、そのことにひたすらムカついている。少なくとも自分の興味ある領域にかんしては、博論本などコツコツ読み、それで賢い同世代を見つけ、喋るなり原稿を頼むなりしなければいけない。(瀬下)

「星のカービィ」シリーズなどを手掛けてきたゲームディレクター濱村崇氏による、ゲーム企画書の添削講座。ゲーム制作指南の動画としてはやはり桜井政博氏のものが有名だが、濱村氏も同じハル研究所出身ということで内容は通ずるものがある。動画の内容は、学生が制作したゲーム企画書を見て、濱村氏が美点や難点をコメントしていくというもの。それも十分参考になるのだが、すごいのは後半。「自分だったらどう直すか」というアイデアを濱村氏がいくつか挙げてくれるのだが、それがどれもすばらしくて感嘆してしまう。例を挙げると、この#1では「浮世絵師」をモチーフにしてアクションRPGの企画書が取り上げられるのだが、氏はこの企画の難点として「剣と魔法でやってることを筆と色に置き換えているだけになってしまっている」ことを指摘する。要は筆で敵を塗りつぶすと倒せる、インク残量がMPになってる、みたいな。これはボドゲでもめちゃくちゃありがち&自分もそうなりがちなので非常によくわかる。ではどんなアイデアでこの企画を改善すればよいのか。氏は「敵を“塗りつぶす”」設定を活かすなら、「目を狙って動きを止めないと他の部位を塗れない」ようにするべきだと言う。すると、「巨大なボスは目を塗れないから足の間をくぐりながら塗って転ばせよう」、「空を飛んでいる敵は水鉄砲で……」とか色々アイデアが膨らんでいく。濱村氏の教えは他の動画でも一貫していて、「そのモチーフならではの動き」のアイデアをとにかくたくさん出すべし、と繰り返し語っている。その膨らませ方が不十分だから、既存のゲームシステムを別のモチーフで置き換えただけのものになってしまうのだと。プロ、すごすぎる。書籍化超絶希望。(松本)

スマブラプレイヤーによるチャンネル「and more」の動画。小学生の時に異常に流行ったCCレモン(うちの地元も「CCレモン」だった。ルールもほぼ同じ)を大人同士でやってみようという企画。ガチ対戦するためにゲーム性を調整していくところが面白い。「5溜め」が事実上の決着となるため、2-3溜めぐらいの段階の読み合いが緊張感あってよかった。動画的に面白かったのは、Shogunさんの提案でスピードを少し緩めただけで一気に読み合いが深まった(ような気がした)ところ。アクションゲームってそういうことだよなあ。(松本)

『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』でおなじみの米光一成氏の新著。120ページぐらいのコンパクトな本ながら、「ゲームをつくるとはどういうことか」がわかりやすく解説されている。米光さんの実際の作品が例にとられているのでわかりやすい。「最初のプロトタイプは本当につまらなくていい」、「一向におもしろくならないこともよくある」ということが語られていて勇気づけられる。ゲーマーというよりは、他ジャンルの制作・創作をやっている人の方が刺さりそう。(松本)

🔗オマケ

DESIGNTIDE TOKYO(太田)

📒編集後記

  • 年末進行でめちゃくちゃ死んでます。けどTCG関連の案件が来たのでそれはめちゃ楽しい。(太田)

  • LUUPやHELLO CYCLINGでの移動がきわまって、普通に原付き買ったほうがいい感じになってきました。でも乗り捨てられるわけじゃないからなあ。悩ましい。(瀬下)

  • ゲムマもあったのでほぼゲームのことしか考えてなかった11月。新作「顔フェイス」をよろしくお願いします。かわいいLINEスタンプもあるよ。(松本)

***

ここに入りきらなかったURLを貼ったり、ゲーム制作の進捗を報告したりするDiscordをやっています。気になる方はコチラからぜひ覗いてみてください。(瀬下)  

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