何もかも初めてだったゲムマを振り返る|ecg.mag #07

ゲームという商品のシビアさ
enchant chant gaming 2023.12.31
誰でも

こんにちは、ecgの松本です。

今月は、東京ビッグサイトで開催されたゲームマーケット2023秋に初出展しました。

そもそも一般参加もしたことがなかったので、何もかも初めてのゲムマ。出展者としても学びがあったけど、どちらかというと来場者としての気付きの方が多かったかもしれない。

特に、普段参加している文学フリマとの違いとして感じたのは、ゲームという商品のシビアさ。本なら「おもしろそう」ぐらいでわりと買ってしまうし、最悪おもしろくなくても所有することにある種の満足があるように感じるけど、ゲームはちゃんと試遊して、「これはおもしろい」と確信を持てるようになってようやく買える、というイメージ。これが本当にゲームと紙媒体の形式の違いなのか、単に自分たちが紙に慣れていて購入ハードルが低いだけという話なのかは、もう少し参加してみないとわからない。でも、ゲームの場合ひとりで楽しむのではなく、(多くは)複数人で遊ぶものだから、「おもしろそう」だけでは不十分で、実際にちゃんとおもしろくなければ困るというのはある気がする。

このあたりの詳しい感想・振り返りはnoteにも書いたので、興味がある方はぜひ読んでみてください。

ちなみに〈香感覚〉の売れ行きは、めちゃくちゃ売れた!というわけではないものの、初挑戦にしては結構健闘したのではという感じでした。良かった……。とはいえ、振り返り記事にも書いたように、ゲムマならではの告知のお作法などがわかっていなかった部分もあり、そのあたりしっかり押さえて次回またリベンジできたらなと。

そしてクラファンのほうは、おかげさまで12/30時点で136名の方に応援購入いただきました。ありがたすぎる……。購入いただいたみなさん、本当にありがとうございます! まだまだ続くので、もしまだの方がいましたらぜひよろしくお願いします。

***

🌐今月のトピック紹介

デザイナーに限らずクリエイティブ業従事者やフリーランサーのキャリア形成には関心があるので、このレポートは興味深く思っています。シリーズものとして展開されている点も嬉しく、読み応えがある。今回の調査のテーマはグラフィックデザイン。デザイン領域のなかでもグラフィックデザイナーはけっこう職人的なイメージが強くまとわりついているものだと思いますし、この調査でもそういう人たちが登場はするものの、印象深かった点としては、グラフィックデザイナーすらも職能的には多様化・複雑化を経験する時代のようです。

レポート内のコラムで触れられていたように、デザイン思考がクリエイティブ産業の覇権を握って以後、デザイナーに求められるスキルセットはどんどん拡大していっています。ひとつのことに習熟するのみならず、アウトプットにおいても連続性や横断性に高い価値が置かれる状況がありますね。それぞれの仕事を単一の媒体の納品物で終わらせるのではなく媒体の複数化やIP(知的財産)化をしたり、デザイナー自身がタレント的な有名性を獲得したり、いろんな搦め手が重要だと言えそうです。(太田)

ブルックリンミュージアムで開催中の展覧会。さきにお断りしておくと、太田はこの展示を観ていません。タイトルを直訳すると「コピー機のマニフェスト──ZINEを作るアーティストたち」でしょうか。ぱっと見で興味を惹かれたのは、その副題によります。なぜって、小規模の自費出版物やコピー本などを意味する〈ZINE〉というのは個人的には反権威性や匿名性と関連度の高い単語なのに、〈アーティスト〉はそれらと基本的には対立する語だからです。

気になって調べてみると、展示を担当したキュレーターの言葉がヒットしました。いわく、「この展示に来る人々がZINEを単に美的な対象だと考えないことを願う」とのこと。ZINEがもつ匿名的な地下文書めいた性質だったりパンク的な反権威・反体制の精神性だったりといったものを捨象して美的な対象としてだけ享受される、そういう事態を避けるような文脈設定があるのかもしれません。

とはいえ、展示の大筋としては美術史のなかでZINEを検討するというもののようです。ちょうど国内でも今年はクリエイティブ業の研修にZINEの制作を用いるという事例がみられました。ZINEというメディアが帯びる性質やそれに期待される役割も変容の渦中にあるのかもしれません。残念ながら会期中にニューヨークに行く予定はないので、どなたかご覧になった方は感想等お聞かせください。(太田)

山本周五郎賞と直木賞の二冠に輝いた『テスカトリポカ』以来、受賞第一作として刊行された佐藤究の長篇小説。『テスカトリポカ』はアステカ文明における〈人身の供儀〉に掛けあわせるかたちで、現代メキシコの〈臓器売買〉にまつわる闇市場に取材したもの。時間を隔てたその二つの要素は〈心臓〉というモチーフによって結びつけられており、この小説はある種の三題噺になっている。こんなふうにいくつかの題材を掛けあわせることで作品を構想する手法は、佐藤も無縁ではないだろうSFやホラーやミステリーといったジャンル・フィクションではそれなりによくみられます。

さて、ここまで前作について触れてきたのは、『幽玄F』もまた多様な要素をもつ小説であることを示したかったから。今作の題材は〈戦闘機〉と〈仏教〉と〈蛇〉の三つなのだが、じつはこれらは三島由紀夫の作品世界から発した語群であるという。三島は戦闘機の搭乗体験を「エピロオグ──F104」(『太陽と鉄』所収)のなかで語っており、そのエッセイが佐藤に霊感を与えたそうだ。言ってみれば『幽玄F』は、三島文学を間テクスト的に拡張しながら同時にひとつの作品をものするという批評的な試みでもあるのだ。(その意味では飛浩隆『自生の夢』を彷彿とさせます。)……しかしまあ、そういうごちゃごちゃした周辺情報がまったく気にならないほどすっきりした読み味と諸要素のみごとな結合により、いろいろな人におすすめできる一冊になっています。(太田)

12月1日にドラゴンクエストモンスターズシリーズの新作が発売された。なんと22年ぶり。自分くらいの世代だと、テリーのワンダーランドやマルタのふしぎな鍵を熱心にやった人も多いのではないかしら。ストーリーをクリアしただけの範囲で言えば、前の作品とかなりプレイ体験が近く、懐かしコンテンツという感じでまあ普通に面白かった。

紹介しているMKRチャンネルの動画は発売2日後にアップされたもの。ゲームに対するプレイヤーの理解度がそれほど高くないなか、弱そうなモンスターを使って世界1位をとりにいく。MKRの動画には、こういった最初期の環境において素早く勝ち筋を見出すというものが結構あって楽しい。オンライン以前の学校最強・地元最強的な感覚を思い起こさせるものがあって、どこかノスタルジックな味わいがある。(瀬下)

著者は小説を中心に、市場環境の変化に詳しい稀有な書き手である飯田一史氏。国内外の新興小説プラットフォームとそこで読まれている作品がたくさん紹介されていて超面白かった。

今年はずっと疲れていて、仕事上の調べ物以外で腰を据えて本を読む時間がほとんどとれなかった。そんな自分でも、布団のなかでマンガワンを開く習慣は続いている。いくつか紹介されているサービスに登録してみたので、寝る前に楽しむコンテンツの幅が広がるといいな。(瀬下)

スパイク・チュンソフトの人気ローグライクゲーム、「風来のシレン」シリーズ。その14年ぶりの完全新作となる『風来のシレン6』が2024年1月25日に発売される。その影響もあってか、前作『風来のシレン5』にも再び注目が集まっており(自分も最近スマホ版をプレイし始めた)、実況や解説が盛り上がっている。初登場が2010年のゲームであるにもかかわらず、今でも実況配信やRTAのムーブメントが続いているのだから驚きだ。

初めてシレンRTAや実況配信をチェックしてみて個人的に思ったのは、「これ麻雀配信に似てるな」ということだった。マップやアイテムが毎回ランダム生成される運要素と、ターン制による選択要素。シレンを安定的に攻略するには、運に振り回されることを前提に、毎ターンごとに期待値の高い選択をし続ける必要があるが、この「運と選択」はまさに麻雀的。配信的な観点でいえば、視聴者も唸るような「正しい」選択を重ねているにもかかわらず、その技術を上回る不運によってすべてが台無しになるというのも麻雀配信に似ていて味わい深い。リンク先の「しらたきch」はそのなかでも解説が達者ゆえにやられ役がハマっていて面白かった。(松本)

先日発表されたVTuber Awardsの「CHATTING(雑談)」部門でともにノミネートされたことをきっかけに、小鳥遊キアラがイセドルのゴセグについて言及(VTuber Awards自体も興味深い試み。詳細はこの記事を参照)。これはおそらく日本の大手VTuberでは初めてのイセドルへの言及になるのではないか、、と思う(厳密には過去ににじさんじKRのイ・ロハとジュルルが一緒にゲームをする配信もあったりしたようだが)。すぐにイセドル側のファンやゴセグ自身が反応し、相互に少しやりとりする様子も見られた。英語/韓国語でのやりとり中心なので、あまり日本のファンに波及している感じはしないものの、日韓V事務所間交流の大きな一歩?として記録。クリスマス前後も相互にがんがん言及し合っていて、次の何かにつながりそうな雰囲気がある。12/30時点で、コラボ実現に向けてゴセグが前向きに動いている様子が観測されている。(松本)

仕事用に読んだ本だったが、たいへん面白かった。試験管で脳を培養する的な話ではなく、副題にあるように「生命性のシミュレーション」がテーマ。自律的な挙動、自己複製、進化、周辺環境との相互作用といった「生命性」を人工物に持たせるにはどうしたらいいのか、についての人工生命分野の数十年の歩みをわかりやすくダイジェストしてくれている。特に、「寄生」が進化に不可欠であるということが、「プログラムを進化させるには?」という実験のなかで証明されていくパートがエキサイティングだった。大規模言語モデルの誕生以降、人工知能と人工生命の分野が合流し、「オープンエンドに進化するAI」の探究も進んでいるらしいので、AI側からの関心で読んでみてもよさそう。(松本)

🔗オマケ

本チャンネル(太田)

📒編集後記

  • 熱海でカードゲーム合宿に参加したり、パートナーの帰省にあわせて遠出(往路の新幹線でこれを書いています)をしたり、最近はいろんなとこに移動しています。来年は海外が開催地の(カードゲームの)大会に出るぞっと意気込んでみたり。あ、遠方・近郊問わず、お仕事の依頼もお待ちしています。(太田)

  • 今月は本当に元気がなくてまいった。野良のスマブラ大会で初めて優勝したし、いいこともあったんだけど、ぜんぜんダメ。そういうわけで紹介記事も少なめっす。年末年始にダラダラして復活したい。良いお年を!(瀬下)

  • ゲムマと転居(とシレン)でバタバタの12月でした。来年はもう一段階麻雀うまくなりたいな。リアルでもネット麻雀でもぜひ誘ってください。(松本)

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ここに入りきらなかったURLを貼ったり、ゲーム制作の進捗を報告したりするDiscordをやっています。気になる方はコチラからぜひ覗いてみてください。(瀬下)

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