配信者ハイパーゲーム大会|ecg.mag #10

ニコニコ的な身体性
enchant chant gaming 2024.03.31
誰でも

ecgの瀬下です。3月中頃におこなわれた、加藤純一 presents「第二回 配信者ハイパーゲーム大会」を見ました。プンレクなのダルいなという感じもありつつ、トリのストリートファイター6が気になって。最終盤ではプンレクなのに同接30万くらい出ててほんとすごかった、スト6こんなに盛り上がるのかっていう(素朴)。

大会全体を通じて面白かったのは、配信者の身体性。YouTuberのそれというよりも、ニコニコ的なものだなと思いました。主催の加藤純一をはじめ、実際ニコニコ出身者が多いわけだけど。総じてオタクのチンピラみたいな感じというか、ゲーセンっぽさというか。同じ関心で、けんきのVlog的な動画も面白いのでぜひ。

ちなみに、今回VTuberはパネルでの参加──席のところにパネルを立てて、そこにいる体にするヤツだから、わりと微妙でした。イベントの技術進化に期待。

今月はecg活動もいろいろやっていました。香感覚のクラファンのリターンとして、返礼品を発送したり、試遊会を開催したり。返礼品発送は一部遅れが出てしまって、ご迷惑をおかけしています(該当の方はごめんなさい)。

試遊会は新作のアイデアが少し見えてくるなど、自分たちも学びが大きく楽しいです。プロトタイプができたら、クラファンとは関係なくテストプレイ会を開催するつもり。Discordにて投げかけるので、気長にお待ちいただけたらと。

🌐今月のトピック紹介

第44回日本SF大賞の受賞作にして、SF作家長谷敏司による10年ぶりの長篇小説。介護、コンテンポラリーダンス、義足内蔵AI。この三つの要素から成る三題噺という印象が強い一作です。わけても、介護パートがもっとも真に迫っていて、ほとんど実録介護小説のようでした。

反面、SFに期待されがちな批判性やセンス・オブ・ワンダーの感覚はあまり目立ったかたちでは出てきません。あくまでも2050年を生きる下流~中流家庭の生活描写や、その時代における技術と芸術の絡み合いといった近未来のシミュレーションが堅固な基盤としてあります。そのうえに「生物にとってダンスとは何か?」という思弁的な問いかけが重ねられていくことで、ぐっとSFとしてのアクセルがかかっていきます。それに対する仮説的な解答はと言えば、「〝距離〟と〝速度〟の視覚情報から中枢神経の信号を高めるもの」(同書123-124頁)とされ、こうした独自の理論に基づいたコンテンポラリーダンスの表現が模索されていきます。

個人的な感想を一言だけ。SFプロトタイピングのように、企業活動の一環で行われるほどポピュラー化した未来社会のシミュレーションと、思弁性によって特徴づけられる従来的なSFとが溶け合うところに現代SFがあるのだとしたら、本作はその優れたサンプルではあるのだろうなと感想をもちました。ただし、それを可能にしている素材が何かと言えば、すでにキャリアを築いた小説家がものする引き締まったセンテンスの数々なのだよなあ、とも。(太田)

スノーデンに取材したドキュメンタリー映画でオスカーを獲得したポイトラスの最新作が、国内で封切られました。今作で監督が切りこむのは、アート業界に流れる「黒いカネ」。

内容はと言えば、メトロポリタン美術館やテート・モダンなど、世界中の名だたるミュージアムに献金していた製薬業界の重鎮一族がいます。その一族についてオピオイド危機との関連性を訴え、ミュージアムとのつながりを断つよう働きかけた写真家ナン・ゴールディンや彼女を中心とするグループを追いかけるという、そんなドキュメンタリー映画となっています。オピオイド危機というのは、主に米国の若年層のあいだで社会問題化している薬害です。

この映画を観たあとで考えなきゃならないであろうことはいくつもあるんですが(キャンセルカルチャー、資本と文化……)、少なくとも今後ゴールディンのポートレートを見たならば、SuicideのChereeのリフを思い起こしてしまうだろうなあ、というのがもっとも強く思ったことです。(太田)

森美術館の開館20周年を祝する記念展として企画され、人新世やエコロジー、持続可能性といったテーマに関連した作品を大ボリュームで展示する展覧会。出展作品は、地域や年代の異なる豊富なバリエーションのなかで100点にも上っています。展覧会の制作過程においても環境への配慮が意識されたとのことで、什器や展示壁をまるっと別の展示から再利用している箇所があり、建材の主張が強い空間のなかで作品を観覧する経験となりました。ほの暗い照明のもと、むき出しの建材に沿って進む順路にはけっこうポストアポカリプスの感が漂うと言いますか、文明が絶えてなお美術を鑑賞したいとしたら、ありあわせの素材で展示空間を作ることになるのだからいま眼の前の状況はそれに等しいのだろうし、あるいは、何らかの対象物を作品と捉えさせる制度的な枠組みとしてのホワイトキューブ自体の持続可能性がここで揺さぶりをかけられているのだろうか、などいくつかの雑念が生じました。(太田)

評論同人『ferne』を主宰する北出栞氏が初単著を刊行。ほしのこえや最終兵器彼女などいわゆるセカイ系っぽいフィクションから、音楽ではYOASOBIや花譜、Tohji、nyamuraといったわりと最近のアーティストまでが論じられているそう。

北出氏は佐々木敦が主任講師を務め、2015年から2019年まで開講されていた「ゲンロン批評再生塾」出身。最近、同塾の卒業生の動きが活発なのでそれも紹介したい。伏見瞬氏はYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」(現時点で登録者数1.6万人)を展開し、 新譜を中心にコメントするYouTuberとして活躍中。小川和氏はナナロク社より『日常的な延命 「死にたい」から考える』を刊行予定。ライター・編集者の谷頭和希氏は今年専業になり、「青くてエモい「ブルーライト文芸」大ブームの理由 「田舎の夏、ヒロインが消える」物語なぜウケる? | 勃興するブルーライト文芸」など、経済誌を中心に寄稿しヒット記事を連発している。

10年代前半くらいまではブログ中心のオタク系コンテンツ批評のシーンが元気で、その種のネタであれば「◯◯+批評」で検索するだけで単なる紹介記事を超えた内容の文章を読むことができた。先ほど挙げたような動きに合わせて、ポップカルチャーに関連する批評文がもう少し増えると楽しいなと思う。(瀬下)

昨年初めてふるさと納税をやってみた。ふるさとチョイスや楽天ふるさと納税など、主要なプラットフォームに登録して触ってみたが、正直どれもユーザビリティはいまいちだと感じた。紹介している記事内にあるふるさと納税の理念の訴求についても、そんなに自慢できるようなことをしているのか疑問。それもあって、純粋に「消費者」として言えば、まあAmazonのほうが便利なサービスをつくれるだろうなと正直思ってしまう。

自治体側に目を移しても、寄付額のうち何割をプラットフォーム側に取られるかが重要なのであって、Amazonがその規模でもって引き下げをおこなったり、使いやすいプランを提示したりすれば、十分惹かれるのではないか。

最近仕事で各地の事業者を取材していて、ふるさと納税が売上の柱になっていると語るケースにいくつか出会った。最終的な制度の是非はともかく、少なくとも自治体や事業者が「外貨」を稼ごうと頑張るきっかけにはなっていると思う。だからこそ、日本のプラットフォームも頑張ってほしいけど……。(瀬下)

OpenAIはメディア企業と対立するのではなく、提携するかたちでニュースコンテンツを取り込んでいくという話──ニューヨーク・タイムズには著作権侵害で訴えられているが。これまでChatGPTは2021年以降の情報をもっておらず、言ってみれば時事ネタが苦手だったのだけれど、連携が進んでいくことで解消されそう。

記事によれば、メディア側のメリットとして、ChatGPT内で記事の情報を使って回答がおこなわれる場合に、出所が明記され元記事に送客できるとある。

また、NewsPicksの有料記事では、ドイツのアクセル・シュプリンガー社との提携について書かれている。もともとかなり保守系の会社だけれども、Business Insiderのような(相対的には)普通?のビジネス誌ももっている。素朴な話だけれども、回答に使われるメディアのバイアス問題みたいなこともすぐに出てきそう。(瀬下)

Xで広岡ジョーキさんが瀬下に勧めていたのを見て読んだ本。習慣づくり系の本はそこそこ読んでて、もうこの手のものに何にも期待しない(でも毎回読んじゃう)という状態になっていたけど、この本は良かった。著者は、たとえば腕立て伏せを習慣化したいときに、「1回だけやる」など極端に小さな単位に分解することを勧めている。1回だけというのは要するに、「やりたくない」という抵抗感がほとんど無意味になるくらい小さなサイズにせよということ。実際、1回なら「あ~やってないな、やんなきゃな」と思った瞬間に完了できる。そして「続けられた」という事実性は残る。この事実性を高く評価しようというのがこの本の趣旨。たしかに5回とかだとすでに面倒くさい感じがする。頭をよぎった瞬間に完了できる単位としての1回。これは面白い。(松本)

Claude3はさすがにすごい。Claude2.1の時から、大量のトークン(=インタビューの文字起こしテキスト)を処理できるほぼ唯一の手段であり、ライティング業務のもろもろの局面で使うならChatGPT等より優れていると思っていたが、完全に実用レベルになってしまった。当該記事の論調のように「ライティングの仕事がなくなる」とは思わないというか、むしろひとりのライターが処理できる案件数が増えるので個人的には歓迎したい流れではある。というか現にめちゃくちゃ助けられている。AIを取り入れることは、AIに渡しやすいように作業を分割するということでもあり、AI側の試行錯誤と業務側の試行錯誤を両輪で回す必要がある。それが今は結構楽しい。同業者がどんな感じで使ってるのかとても気になる。(松本)

事情があってポケモン最新作のバイオレットをプレイした。たぶんポケモンちゃんとやるのブラック(2010年)ぶり。細かなところがいろいろノーストレスになっていたり、そもそもオープンワールドになっていたりして新鮮だった。シレンでも感じたけど、プレイヤーにとって単純に面倒くさいと感じる制約要素(面倒な移動やレベリング)は極力排除して、プレイの核の部分に集中させるのは今っぽい感じがする。ストーリーに関しては、オープンワールドの自由度と、物語の骨太さを両立させる終盤の展開が大変よかった(以下ネタバレ的記述あり)。簡単にいえば、今回のポケモンのストーリーには3つのルートがあり、攻略上はどこから進めても問題ないようになっている。でも、最終盤でそれら独立したストーリーがひとつに合流する。特別変わった物語というわけでもないんだけど、「冒険の楽しさ」を演出したいという意志の強さを感じて楽しめた。ちなみに、ずっと実況動画などを観ていただけで自分では一度も挑戦したことのなかったオンライン対戦(ランクマッチ)にも初めて挑戦してみている。ここに挙げたnote記事は、スマブラプレイヤーのShogunさんがポケモンに挑戦した際のメモ的なもの。こういうメタ的なゲーム上達論はおもしろい。イダイトウは偉大。(松本)

🔗オマケ

📒編集後記

  • 年度末的な仕事(や年度内に収まらなかった業務)の立てこみがすさまじく、慌ただしい日々を過ごしています。多方面に迷惑をおかけしているので謝罪必至の感が強まるなか私事で恐縮ですが、3月頭に結婚しました。来月はもう少しゆとりをもちたい……。(太田)

  • ハイゲの盛り上がりもすさまじく、スト6ブームが極まってきたなというところで、太田氏の導きもありゲーミングPCを買ってしまいました。macOS14.4の不具合やM3の微妙さなど、Appleへの不信感もあり。ゲームはもちろんだけど、100000年ぶりにWindowsを触るのも楽しみです。おすすめ設定やアプリなど教えてほしい〜!(瀬下)

  • 年度末が終わった。とにかく暇になりたい。来月はAIをひたすらいじって遊ぶ時間をとりたい。ポケモンSVのランクマッチで4桁以内に入りたい。新作のゲームをつくりたい……。そういえば、今月お会いした方々に「メルマガ読んでます」と言っていただくことが何度かあった。がんばりたい。。(松本)

***

ここに入りきらなかったURLを貼ったり、ゲーム制作の進捗を報告したりするDiscordをやっています。気になる方はコチラからぜひ覗いてみてください。(瀬下)  

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