IDEOの従業員削減、RPG学研究、イセドルの日本メイドカフェ体験など|ecg.mag #06

お知らせ:〈お香の香りで遊ぶボードゲーム〉のクラファンが開始!
enchant chant gaming 2023.11.30
誰でも

こんにちは、ecgの太田です。

突然の宣伝で恐縮ですが、何度かこちらでもお知らせしてきた〈お香の香りで遊ぶボードゲーム〉がいよいよ発売となりました。内容としては、お香の香りを嗅いで思い浮かべた答えを当て合うボードゲームです。子どもから大人まで、初対面でも仲良しでもわいわい盛り上がれます!

じぶんたちとしては初のボードゲーム制作でして、さらに初めて続きでクラウドファンディングにもMakuakeにて挑戦中です。価格は1,870円(税込み/送料込み、Makuake特別価格)。今晩20時にオープンしたてのクラファンページが以下のものです。よければぜひご贔屓いただけましたら……!

***

🌐今月のトピック紹介

トレーディングカードゲームを題材にしたウェブマンガ。いまもFANBOXやpixiv上で連載が続いており、その第一部である「うさぎとうさぎの奮闘記」では、社会人にとっての青春というテーマをバディもののテイストで描く。

本作を今月取り上げることの社会的な必然性は、ぶっちゃけありません。けど、個人的には今号でぜひ紹介したいと思いました。思えば、コロナ禍中から現在までのあいだは、アナログ/デジタル問わずゲームというものに深く没入した期間でした。いつの間にか、ボードゲームの制作に乗り出すほどにのめりこんでいました。そしてじぶんをそこに駆りたてる根っこの部分には、カードゲームの大会に参加するべく練習や準備をした友人との経験があったなあ……ということを、『カードゲームうさぎ』から想起させられたんです。

カードゲームにおいても、将棋や囲碁と同じく「感想戦」という習慣があります。勝敗がついたあと、対戦相手や観戦者とともにそこに至るまでの推移を検討する作業ですね。このマンガのシリーズに登場するプレイヤーたちも、盛んに感想戦を行って盤面の推移をあれこれ議論します。当初は勝つことを目指して議論していたうさぎたちは、感想戦に類する行為のなかで、やがて互いを理解しあうコミュニケーションそのものの魅力によって癒やしを得ていきます。言ってみれば、「議論厨」特有の連帯が始まる瞬間を、わたしたち読者はこのマンガにおいて目撃することができます。(太田)

兵庫県美で開催されたPerfumeの展覧会(すでに会期終了済み)。Perfumeはじぶんたち世代のクリエイティブ業従事者にとっては重要な固有名だと思っています。国内的には紅白歌合戦の出演アーティストでありながら、ライゾマティクスが技術提供を行なうアーティストとして名高かったり、カンヌライオンズやSXSWで受賞ないしパフォーマンスを実施していたりといった面をもちます。つまり、音楽的な大衆性とメディアアートの先端性とを併せもったユニークなアーティストです。そして今回の展示では、そうした多様な側面が、ステージング衣装という一点に焦点を絞るなかでおのずと現われてくるという構成になっており、唸らされました。(太田)

デザインコンサルタント会社のIDEOが大規模な従業員の削減を行なうというニュース。速報的に耳目を集めた最初期の記事はFastCompanyによるもの。今月頭にクリエイティブ業界を広くざわつかせた話題であり、すでに各種媒体による日本語での解説もありますが、やはり取り上げておきます。

事実としては、同社でグローバルに働く従業員の25%に相当する125名を解雇するうえ、ミュンヘンおよび東京のオフィスを閉鎖するとのこと。収益減の背景要因(デザイン思考はもはやIDEOの専売特許ではなく他社も実施して久しいこと、大口クライアントの撤退、AIテック人材の不足など)や組織構造の変化の兆し(フリーランサーのネットワークになる)については、ここではくりかえしません。考えてみたいのは、つぎのようなことです。

2023年をふりかえったとき、デザイン思考というトレンドの低調ぶりが確かなものとなった一年であったと言えるのかもしれません。春先にはMIT Tech Reviewで「デザイン思考の10年間」を論評するような記事も世に問われました。この記事やそこで引用されている論文によれば、デザイン思考の成り立ちはそもそも、クリエイティブ業界内での付加価値創出および案件の高単価化をめざしたものであったと説明がされています。

論文の著者は、2000年代半ばに成立したデザイン思考をグローバリゼーションのなかで眺めてみています。当時は工業デザインの実務を中国やインドへアウトソーシングする価格競争の流れがあったとされます。そんななか、必然的にグローバル・ノースのクリエイティブ業従事者たちは、下請け業者には真似できない仕方で自分たち特有のスキルセットを発明する必要に迫られ、デザイン実務とコンサルティング業の融合がデザイン思考のかたちで果たされた、というようなストーリーが展開されます。(ここでのクリエイティビティ神話をエンパワーしたのがダニエル・ピンクの著書だったという興味深い指摘などもあります。)

「デザイン思考の本質的な問題は、企業に起源を持つことによるものであり、その方法論と資本主義的価値観が密接に絡み合っていることに起因するのだという。正義というレンズが現在の権力構造を超えた、より広い意味でのコラボレーションや創造性を促進できる(……)」(MIT Tech Reviewの記事より)

ここで希求されているように、デザイン思考を換骨奪胎したところから社会正義に寄与する方法論が作りだされるとしたら、その展開を見守ってみたいと思います。(太田)

2019年に創刊されたTRPG分野の学会誌。最近今年の号が出て、その存在を知った。HTML版がかなり読みやすかったり、引用の方法が明示されていたりして、ウェブサイトとしてイイ感じ。

内容的に興味を惹かれたのは、ゲームマスターをテーマにした昨年の特集。ゲームマスターの力量をマッピングしようと試みるものや、ゲームマスターなしのデザインをアナキズムに準えて評価するものなど、その成否はもちろん判断できないけれども、楽しく読むことができた。TRPGがやりたくなった。(瀬下)

10月下旬に任天堂が自社のゲームソフトを用いた大会にかんするガイドラインを発表した。簡潔に内容を伝えることは不可能なので、自分がやっているスマブラSPのコミュニティへの影響についてのみ少し書いておきたい。

最初このガイドラインが発表されたとき、プレイヤーの間では「任天堂は実質的にスマブラの大会を潰そうとしていて、もう競技シーンはなくなってしまうのではないか」といった反応もみられた。僕自身はそこまでのものではないと感じたけれども、少なくとも不安にはなった。

結果どうなったか。小さな大会はガイドラインを守り、大きな大会は任天堂に個別に申請してその多くは大会開催の許可が下りるという感じになっている。そういうわけで、ガイドラインの発表から1ヶ月ほどの段階では、日本の競技シーンに大きい影響はなさそうだ。ひとまずはよかったという感じ。IPとファンコミュニティの関係について、あるいはガイドラインによるグレーゾーンのゆるやかな規制について、かなり考えさせられる事例。(瀬下)

文学系の同人誌即売会・文学フリマを中心に活動している批評同人の代表ふたりによる対談記事。「学生サークルとしての批評同人」という切り口で企画されているため、話されている内容はともかく、学生たちがどういうノリで活動しているかが伝わってくる。ここ数年は批評に限らず、コロナ禍の影響でサークルが潰れたり停滞したりして、学生による集まりの実態を知ることは難しくなった。そういう意味では、わりと貴重な資料かもしれない。

ちなみに、記事内でやや唐突に名前があげられている運動家・外山恒一氏は、学生による批評同人のシーン形成において重要な役割を果たしていると思われる。彼はコロナ禍中も学生を集めて「教養強化合宿」をさかんに展開していたからだ。大学で友達をつくることすらままならない時期に、学生同士のつながる場を提供する──この実践がなければ、いまのシーンは違ったものになっていただろう。実際、評論系の同人誌をつくっている学生に話を聞くと、この合宿について口にすることが非常に多い。

外山氏がこの場をどのようにデザインしているかは、このPodcastで語られているので、興味のある方はぜひ……とか書いていると、なんだかマニアックな話のように思われそうだ。でも、シーンやコミュニティができていくとき、絶対こういう空間がある(し、大事である)ものだから付記しておく。(瀬下)

イセゲアイドルのゔぃちゃんによる日本のメイドカフェ体験動画。ゔぃちゃんは日本のオタクカルチャーに明るく、ボカロ曲以外に日本語ロックのカバーもたまにやっていたりする。この動画を観ればわかる通り、簡単な会話であれば日本語もできるらしい。動画の内容としては、秋葉原の「めいどりーみん」にモニタを置いて、画面越しにメイドカフェを体験するというもの。このスタイルはゴセグも一度韓国のメイドカフェで実施していた。こういう実写コラボ的なやつ、日本のVでもありそうだけどすぐ思い浮かばない。

後半はコミケ参戦編で、タブレットに映るゔぃちゃんに反応した本国のファンが2名ほどインタビューに答えている。18禁と思われる戦利品を紹介させられるファンかわいそうで笑った。ファンとイセドルの独特な距離感?も垣間見えて結構面白い。ホロライブのブースで「先輩たち~」と呼びかけるところも、イセドルのメンバーが日本のV文化をどう見ているかがわかる感じで興味深い。なお今回も日本語字幕はGAMRAMSTONEのみなさん。リスペクト!(松本)

今更だけど今年の夏に公開されたバキ童チャンネルのフィリピン編を見て妙に感動してしまった。バキ童らはもともと芸人仲間同士でかなり限界感のあるルームシェアをしていて、それもモラトリアム濃度が高くて面白かったんだけど、残念ながらそこはしばらくして解散してしまった。その後、キモシェメンバーの一人であるレンタルぶさいくがなぜかフィリピンに飛び、ほんとか嘘かわからないが現地で困窮しているということで、キモシェのメンバーみんなで久々に集まってフィリピンまで会いに行こう、というのがこのフィリピン編の趣旨。ホモソーシャルな旅行記としても楽しめるし、再集結が海外なのも劇場版感があって味わい深い。今書いていて思ったけど、この人たちの動画が好きなのは、芸人らしく日常も全部コンテンツにしてやろうという気概と、日常であるがゆえの普通のだらしなさみたいなものが、共感可能な形で混ざっているところだなと思った。ホームビデオの友達版の理想型、みたいなことか。(松本)

美術家の大岩雄典さん、西村梨緒葉さんによる分散型自律展覧会「実効|Work」のガラ(特別興行)に、会期終了ギリギリで参加できた。会場はすでに解体中だったものの卓は立っていたので、その場にいた人たちで大岩さんの作品《カードゲーム》をプレイする。大岩さん、西村さんとは以前マーダーミステリーを遊ぶ会で何度かご一緒していて、そのときにこのゲームのテスト版を遊ばせてもらったこともあった。ひさびさだったので最初は少し戸惑いつつも、次第に「そうそう、こういうゲームだった」と思い出す。このゲームの面白さは、ルールのほとんどが「カードの効果」(呪文)という形で設定されていくところだ。たとえばゲームの終了条件や勝利条件でさえもカードの効果によって決まり、時に上書きされる。たとえば「勝利条件を手札の合計価のもっとも高い人とする」といった意味のカードが何種類も入っている。あるいは「山札をすべて捨てる」、「ゲームを終える」などのカードがプレイされなければ、ゲームは基本的に終わらない。ゆえにものすごくミニマルだけど、ものすごく自由で複雑で、遊んでいるとルールと戦略の関係についていろいろ考えてしまう。勝利条件が可変的である以上、戦略はつねにメタ戦略になる。「勝ちパターン」を考えづらいゲームにおける「うまさ」とは何なのだろうか。ちなみに、来場者もオリジナルのカードを作ってよいらしく、僕は「以降、みんな手番になったら2秒以内にカードを読み上げなくてはならない」というカードを追加した。(松本)

🔗オマケ

たむらかえ2(松本)

Magic Todo(松本)    

📒編集後記

  • 香感覚ついにリリースです! 個人的にはこれで遊ぶ会も企画したいと思っているので、興味おありの方はお気軽にご連絡いただけると嬉しいです。お久しぶりの方ともこれを機に再会したいです!(太田)

  • ひたすら香感覚の告知をやっています。1年間がんばって制作してきたので、多くの人に楽しんでもらいたいです。応援よろしくお願いいたします。へとへとで、もう小学生みたいなことしか書けません……。(瀬下)

  • 来月になんと今年2回目の引っ越しをすることになりました。今いる横浜・関内・阪東橋エリアは本当に良い場所でとても気に入っていたんですが、ポジティブな理由の転居なのでまあ仕方なし。次は幡ヶ谷なのでお近くの人ぜひ遊んでください。(松本)

***

ここに入りきらなかったURLを貼ったり、ゲーム制作の進捗を報告したりするDiscordをやっています。気になる方はコチラからぜひ覗いてみてください。(瀬下)

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