ゲスト寄稿者・柑橘が注目の『学マス』と『Hades II』|ecg.mag #12

泣きながらコモンを限凸P、ザグレウスの声とぼやきに感涙
enchant chant gaming 2024.06.01
誰でも

ecgの太田です。毎号のメルマガタイトルにナンバリングを付しているのですが、今号は#12。月イチ発行の本メルマガとしては、つまり一周年記念号でもあるわけですね! ひとまず一年続きました。今後もぜひご贔屓たまわりたく、よろしくお願い申し上げます。

一周年記念号から始まる新たな試みとして、今号はゲスト寄稿者・柑橘氏にご登場いただいています。氏はわたしたち編集部との付き合いで言えば、昔からさまざまなゲーム(デジタル/アナログ問わず)をいっしょに遊び、また無限にも思える時間を費やして感想戦を飽かず繰り広げてきた仲でもある友人です。『香感覚』制作の際には何度もテストプレイに参加いただき、ゲーム性の更新に関わる貴重な意見もちょうだいしました。

今回の柑橘氏は、ゲーマー諸氏にとって2024年5月時点での要注目タイトルであろう2作品を取り上げてくれています。『学園アイドルマスター』と『Hades II』がそれです。ゲスト寄稿は不定期な企画となりそうですが、まだ何人かお声がけできそうな候補が頭にありますので、今後の展開を見守っていただければと。それでは本文のほうお楽しみください。

🌐今月のトピック紹介

「アイドルマスター」シリーズとしては6タイトル目。『Slay the Spire』の後継といってよいゲームシステム。つまりカードゲーム+ローグライクである。歴代アイドルマスターと同様に3人のアイドルを中心に物語が動いていきながら、プロデューサーである私たちはひたすらに初星学園の定期試験を繰り返していく──。

筆者は花海咲季(はなみ・さき)が推しですが、SSRどころかSRも引けず、R(つまりコモン)を限凸して泣きながらやっています。味付けが『Fate』シリーズというべきか、なんというか憧れた存在に向かって走っているのですが、早熟で自らの限界を感じながらしがみつく人の話しなのでとてもいいですね。

そんな彼女のデッキにおススメカードですが、《演出計画》《〇〇の力》《〇〇》です。(自分でぜひ発見して欲しいので伏せますが、プロデューサー=プレイヤーの介入である《演出計画》が含まれることでキャラクターとの結びつきを強める、いいフレーバーをもったデザイナーズコンボなのです。)(柑橘)

待ちに待った『Hades』の続編! の前に一作目の話しが必要でしょう。『Hades』は2020年発売の、『Metacritic』93点を誇るローグライク・アクションの大大大傑作です。同作の下敷きとなっているのはギリシャ神話で、主人公はハデスの息子ザグレウス。マイナーな神々の一柱ですが、彼が地上に住まう母ペルセポネに会いに地上へ向かうというストーリーで、非常に良い配役でした。古代ギリシャの英雄は、「生者として一度冥界に降り、地上へと戻り、また死者としてアケロン川を渡る」というのがお決まりなのですが、その逆をやることでローグライクの何度もやり直せる理由をクリアしていたのが白眉だったなと思っています。

そんなゲームの続編! ということで『Hades II』のアーリーアクセスが開始されました。これを機に前作をプレイしてもらいたいですね。僕はアーリーの英語版で泣いて日本語で泣いてを繰り返しました。ザグレウスの声とぼやきが本当にいい。なお『Hades II』はかわいい妹が主人公です。(柑橘)

現代美術系の英語圏のメディアとして重要な(と言い切っていいと思うんですが)『e-flux』のNotesという欄に載っていた対談コンテンツがおもしろく、個人的にはほぼ毎段落で興味深さを感じました。SF作家テッド・チャンとAgnieszka Kurantというアーティストによるものです。主な論題は、AIなどの先端技術と資本主義のはなし。以下では、ものを考えるための材料(food for thought)として目についた段落をいくつかピックアップ。

・ユク・ホイの宇宙技芸論と絡めて技術発展のシリコンバレー中心主義に触れるところ。そういえばこの著者はこの夏に新刊を控えているそうです。それと、シリコンバレーでビッグテックが成立する歴史を描いた『The Code』(2019)というクロニクルがあるみたいで、最近知ったのだけどこれから読むのがたのしみです。

・キム・スタンリー・ロビンスン(SF作家)の気候小説『The Ministry for the Future』(2020)ってそんな内容なんだあ、炭素に基づく通貨制度かあふむふむ、とか思っていま調べてみたら、昨年に邦訳が出ていた。ぜひ読みたいですね。

・対談末尾ではAIの大規模言語モデル(LLM)がインターネットをクズコンテンツまみれにしてしまってどうしようもなくなる、という危惧が語られる。最近読んだMITテックレビューの記事を思いだした。ウェブが収益化広告とともに発達した経緯を丁寧に追い、そのなかでいかにひどい状況が生じてしまったかを跡づけている。(太田)

最近やたらとシーシャ屋にいます(週3以上)。出張や仕事のための移動の合間に立ち寄ったり、カードショップ近くのシーシャ屋さんでカード仲間とダラダラしたり。通ってみて思うのは、贔屓にする対象はお店単位ではなくシーシャ提供者の単位ではないかということ。要するに「あの人が出してくれるあのフレーバーはおいしい」みたいなはなしだ。その感覚を、「若手シーシャプレイヤーインタビュー」は裏打ちしてくれる。このYouTube動画シリーズは各地の「シーシャプレイヤー」にインタビューし、シーシャ提供時にプレイヤーたちが考えているあれこれを開示してくれる。フレーバーの分量とか炭の温度とか湿度とかいろんなパラメーターがあるってことは直感的に理解可能であり、料理人ぽくもある。他方で、「キューブ」や「フラット」や「パワー」などのなにやらおもしろげな諸概念や用語が飛び交っているのはよくわからないおもしろさがある。特定の専門性をもった人たちが独自の語彙で熱っぽく語る様子からはおのおののクラフツマンシップを垣間見れる気がし、とてもたのしい。(太田)

2021年に立命館大学大学院出身の若手研究者によって設立された、歴史研究の学会およびジャーナル。「アンチ学際」をコンセプトに掲げており、真に「正統」な歴史研究を掲載するとしている。2024年5月に3号が公開された。巻末に付された編集兼運営委員による座談会は、門外漢にとっても興味深い。セクシュアリティにかんする研究は日本史業界では未だに評価されづらいとか──SMの研究が例としてあげられており、『日本史研究』のような権威のある媒体はもちろん、女性史やジェンダー史のジャーナルでも掲載は難しいという──、人物の細かい部分に着目する研究がしたくても文字数制限が厳しくて記述をごっそり落とさなければならないとか。先に紹介したコンセプトは字面だけ見ると正直ギョッとする(私はした)。しかし、これまで学際の名のもとに周縁に位置づけられてきた研究にかんして、きちんと評価する場をつくろうという考え方は至極真っ当なものに感じられ──実際の研究については判断できないが、毎号チェックしたいなと思った。(瀬下)

まったく時事的な内容でないが、最近知ってあまりに便利だったので紹介。2022年にローンチされたNDL Ngram Viewerは、国立国会図書館デジタルコレクションのOCRデータを検索・可視化できるサービス。国立国会図書館デジタルコレクションは2021年にほぼすべての資料(247万点(2億2,300万画像))をOCR化しており、それによって同サービスの下地ができた。私がこれを知ったのは、「主人と結婚」と「夫と結婚」というふたつのフレーズの出現頻度を比較している先週のツイートを見たため。自分はこういう比較はやっていないけれども、気になる言葉や言い回しがあったときにこのサービスで検索するといろいろ捗る。(瀬下)

今月の前半(つまりコロナで寝込む前)はひたすらこのゲームをやっていた。4/10に正式リリースされたオープンワールドゲーム。プレイヤーはとある理由で未開拓の惑星にひとり漂着し、その星をテラフォーミングゲームしていく。フィールドには「コバルト」「アルミニウム」などの素材があれこれ落ちていて、それを採集して拠点に持ち帰り、酸素や電力を生み出す装置をクラフトしていく……というのがゲームの流れ。敵キャラは出現しないものの、外で長く探索していると酸素や水分のゲージが減っていくのでそれが実質障害となる。ひたすら目の前のタスクをこつこつこなしていくと、アハ体験的に惑星の風景が変わっていくのが楽しい。かつてのMMORPGで生産職ばかりやってた民には刺さりそう。昔ハマった『エバーブルー』なんかも近い感覚(過酷な自然環境それ自体が敵的な)。次は海洋探索ゲーの『Subnautica』をやろうと思います。(松本)

ゲムマ会場で購入したオインクゲームズの新作ボードゲーム。ジャンルとしてはドラフト(共通のデッキからみんなでカードを1枚ずつ取っていく)で、展開した土地に動物を並べていきポイントを集めていくゲーム。「草食と肉食は同じ土地に並べられない」とか、色々制約があって頭を使うのが楽しい。ドラフトはMtGなどのTCGでは経験があったけど、ボドゲではあまりやったことなかったので新鮮だった。ボドゲのよさはやっぱり間口の広さで、ドラフトの肝である「運に左右されつつも、自分なりの方針を立てて戦略を通す」という部分を初見で楽しめるのがいいなと思った。カードのデザインやモチーフなんかも全体的にかわいくてしっくりくる。こういうものを作れたらいいですね、、(松本)

🔗オマケ

📒編集後記

  • 今月は文学フリマ東京に参加しました。今回は紀行文風のカードゲームエッセイを書き、フリーペーパーとして配布しました。noteにもアップしていますのでぜひそちらもどうぞ。そうそう、7月はアムステルダムへ大会遠征に行きます。現地情報やおすすめスポット募集中です。(太田)

  • 文フリで初めて自分だけの本をつくった。一晩で8000字くらい書き、テキトーに組んでネットプリント。ほしい人いたら連絡くれれば、pdf送ります。(瀬下)

  • 初めてコロナに罹りました。40度近い熱が3日間ぐらい続いてひさびさにしんどかった……そして今は嗅覚がないしなんか鬱っぽい。なんなんだこの病気は。文フリにも参加できず、台湾旅行もなくなり、かなりしょんぼりしています。楽しいことないかな……。(松本)

***

ここに入りきらなかったURLを貼ったり、ゲーム制作の進捗を報告したりするDiscordをやっています。気になる方はコチラからぜひ覗いてみてください。(瀬下)  

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