韓国バーチャルグループ「イセゲアイドル」新曲「KIDDING」がK-POPチャート殿堂入り|ecg.mag #03

バーチャルK-POPシーンのニコニコ動画ノリ?
enchant chant gaming 2023.08.31
誰でも

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enchant chant gamingの松本です。

かねてより追いかけている韓国のバーチャルアイドルグループ「イセゲアイドル」の新曲「KIDDING」が8月18日に公開された。「RE:WIND」、「Winter Spring」に続く3曲目のタイトル曲で、1年以上の延期を経てようやくリリースされた形。とはいえその間に他の企画に絡めた楽曲がいくつかリリースされている。今年のイセドルの勢いは本当にすごくて、「LOCKDOWN」に「Another World」、そして今回の「KIDDING」と、3曲連続でmelonチャートアルバム部門の殿堂入り(24時間以内に100万再生以上)を果たしている。3曲連続での殿堂入りは史上初。週ごとのチャートでも(新曲とはいえ)NewJeansやIVE、BTSのジョングクなど錚々たるメンツが並ぶなかにしれっと紛れ込んでいて、もう普通にひとつのK-POPグループとして認識され始めている感がある。

実際楽曲としても、これまでで一番直球でK-POPやってるように感じる。それもそのはずで作詞作曲は「Another World」同様、IZ*ONEの「Highlight」を作編曲したイ・テフン(CLTH)。振付もメンバーのリルパではなく、スウパ(Street Woman fighter)にも出演していたHyeilyが手がけているダンスについてはクレジットを見る限り、Hyeilyのチームが踊ったものをモーションキャプチャしているらしい。

ただ、イセドルを単なるバーチャル化したK-POPアイドルとして見るのは不十分で、その本質はやっぱりWAKTAVERSE(および왁물원)という奇妙なファン/クリエイターコミュニティにあるように思う。しかしこれをどう紹介したらいいのか……たとえばニコニコ動画という概念やいくつかの尖った事例を海外向けに紹介することはできても、ニコニコ動画という生態系そのものを翻訳することは難しいと思うが、それと同様の難しさがある。となると一次創作と二次創作と無意味なじゃれ合いとが日々投下され続ける「遊び場」を実際に覗いてみる他ないわけだけど、そこには言語の壁がある。とはいえ、そもそもWAKTAVERSEのコミュニティは日本のコンテンツやオタク文化のファンが多く、ノリもユーモアも結構近い。加えてこれまた有志でありながら組織化された(!)翻訳チーム「Gamramstone」が動画に各国語訳をつけてくれているので、YouTubeにアップされているもののうちいくつかは日本語で楽しめる。

何が言いたかったかというと、KIDDINGを作曲したCLTH氏もまたウワクグッドのファンであり、(IZ*ONE「Highlight」の作曲家であると同時に)WAKTAVERSEのコミュニティの一員だということである。たとえば彼は2022年の年末公募展(WAKTAVERSEのファン有志が投稿する二次創作祭りみたいなもの)でもMADで1位をとっているし、イセドルのメンバーViichan主催のミュープロハッカー(뮤프핵)という企画でも即席のオリジナルの楽曲を披露している。後者はあまりにもIZ*ONEでびっくりするが、単純にクオリティが高いだけじゃなく、サビで「コラニ」(Viichanのファンネーム)を連呼するなど遊び心もある。いわば「野生のプロ」的な遊びというか、WAKTAVERSEの熱量と盛り上がりを象徴する事例のひとつといえるが、そんなお遊びに全力で参加するCLTH氏が新曲の制作を担当し、実際にmelonチャートの殿堂入りまで果たしてしまうというのが、本流のK-POPシーンとも日本のVシーンとも異なる今のバーチャルK-POPシーンの面白さだよな~と思う。紹介したいしたい詐欺になりつつあるけど、文脈が絡まりすぎていて途方に暮れているというのが正直なところです。

  • 備考1:イセゲアイドルの日本語名称は最近まで「異世界アイドル」だったが、日本に同名のアイドルグループがあるとのことで「イセゲアイドル」に統一することになった模様。WAKTAVERSEまわりはもともとパロディネタが多いこともあり最近権利関係をいろいろ気にしているようで、こういう名称変更やアバターの変更などがちょこちょこある。

  • 備考2:先述の「ミュープロハッカー」はとても面白い企画だった。もともと海外で「Minecraftでニュービー(初心者)、プロ、ハッカーがそれぞれ同じお題の建造物を作ったらどのぐらいクオリティに差が出るのか」的な遊びが流行していて、ウワクグッドがそのパロディとして始めたのが눕프로해커(ヌープロハッカー:ニュービー、プロ、ハッカーの略語)。それをViichanがさらにパロディし、作曲というテーマで行ったのが「ミュープロハッカー」。EDM、バラード、K-POPなど5ジャンルについてそれぞれクリエイターが参加し、たった5時間で作曲を行う。CLTH氏はK-POPジャンルの「ハッカー」として参加し、上述の楽曲を制作した。

🌐今月のトピック紹介

米FTCとテック大企業との悶着が日々ニュースメディアを賑わせていますね。それに関連したデザイン業界の動向として、UI/UXの専門家たちが自分ら自身の仕事について、その倫理性を自問しているそうです。サブスクリプションの解約手続きをわかりづらくするという、悪名高い「ダークパターン」を設計するべきでないのだとしたら、デザイナーたちはどうしたらよいでしょうか。クライアントをもつサービス業従事者であるデザイナーにとって、アサインされたプロジェクトのどこまでが責任の範囲なのでしょうか。建築家であれば、「施主を教育する」という物言いもかつては散見されていましたが、そうした態度はUI/UXデザイナーにも適用可能なものなんでしょうか。(太田)

2019年に立ち上がった新興TCG(トレーディングカードゲーム)が東京と大阪を中心に国内でにわかな盛り上がりを見せているようです。ニュージーランドのスタジオが手掛ける『Flesh and Blood』(以下『FaB』)というタイトルで、来年に日本上陸するとされています。個人的に興味深い点は、TCGにもかかわらず格闘ゲームの用語や概念セットでゲームの分析が進められていること。紹介した記事のなかでは、『Magic: The Gathering』の用語が『FaB』になじまないとの指摘とともに、『ストリートファイター』シリーズのキャラクターや戦略を応用した理論的な考察が展開されます。連載となっており、4本ほどの記事が現時点で公開されています。その分量や着眼点のユニークさにもおどろくいっぽう、ユニバーサルな理論が未整備な新興TCGならではの熱気が、ラフな共同探究の様子から伝わってきます。(太田)

『Forbes』誌のアニュアル企画である「世界を変える30歳未満」に選出されたアーティスト、布施琳太郎氏の個展を見に行ってきました(残念ながら本メルマガ配信時点で会期は終わっています)。本展はある種のSFのような世界観設定を有した企画となっており、「人と人がコミュニケーションをした場合、その二人は絶縁しなければならない未来」(展覧会の趣旨文より)において人々が制作するかもしれない人工物を試作し展示する、というものです。

作家自身、その影響を公言するものとして、映画監督・新海誠の諸作品や「セカイ系」のムーブメントなどがあります。それを踏まえると、任意の二つの主体同士が意思疎通を図ろうとする際に問題化する「隔たり」の厚みを伴った存在感であるとか、祈りにも似たその乗り越えの企図などは、本展の随所に見られる要素として観者の注意をひきつけます。──カップルの親密さを覗き見させるかのような、物語未満の断片たち。匂い立つその痕跡を記録した人工物の数々は、たしかにひとつの世界らしき構築物のありようを垣間見させるとともに、いずれだれかと絶縁することを運命づけられた主体としての、ひどくありふれた自らの生をそこに見出す経験をもまた、わたしたちの内にもたらします。ここにおいて、「絶縁しなければならない未来」とはなにもよそよそしい未来の形象ではなく、普遍的な生のグロテスクな戯画にほかならない。勘どころをおさえてすべてがさっぱりと構成された展示空間、そこに実存の足もとを異化するひとつの「世界」を顕現せしめた作家の力量と、そのことがすでに織り込み済みであったと知らされるステートメント(「展覧会は異なる時間感覚を再起動する装置であって欲しい」)に脱帽しました。(太田)

みずほ銀行産業調査部による、VTuberを中心としたコンテンツ産業のレポート。VTuber事務所以外も儲かる産業に育てていくために、プラットフォーム集約やメディア企業との連携が重要だとしている。個人的にはそんな提言以上に、「【図表 16】韓国企業の国際競争力強化の取り組み」が整理として有益だった。(瀬下)

先日、サウジアラビアで開催された格闘ゲームの国際大会「Gamers8」で優勝し、賞金40万ドル(約5800万円)を獲得した翔選手。同選手は福島県のゲーミングチーム「IBUSHIGIN」に所属していることから、地元紙でその活躍が取り上げられている。記事内にある交流スペースがうまくいくのかは謎だけど、さすがにこれほど強いプレイヤーがいたら、なにかしら起こるのかなという気持ちにもなる。いわゆる名門チームにすぐ移籍……とかもありそうだけど。(瀬下)

富士山の山頂で対戦する企画「富士山頂ゲーミング」のスマブラ版。eスポーツ選手の──オタクの身体性に関心があって、仕事をしながらラジオ的に視聴した。半袖のユニフォームが寒すぎる、手がかじかんで「ずらし」ができないなどの悪条件が笑える。実況がうまいと、こういう企画ものも成り立つなあ。(瀬下)

知識人の身体性に関心があ(ry……今年みた大先生動画ランキング暫定1位という感じ。YouTuberと自然に横に並びつつ、別の時空を生じさせることに成功しているところが重要。こういう雰囲気が出せるのって、文系だと松岡正剛とかかしら。(瀬下)

VTuber界隈では言わずと知れた夏の一大イベント。でも本編をリアルタイムでちゃんと見るのは今回が初めてだった。前までは、パワプロのオートプレイをひたすら見続けるのって退屈じゃないのかなと思っていた。実際見てみると試合のテンポが思ったより速くて、かつ一球一球がガチャとして機能しているので意外と飽きない。そのガチャの隙間を選手=ライバーの情報量と両監督のトークが埋めていく。切り抜きやダイジェストで見るというよりも本編で見た方が面白いタイプのコンテンツなんだな~と得心した。

本編とは関係ないけど、野球のルールをそもそも知らないファンが結構いて、野球についての初歩的な質問と回答のやりとりがマシュマロなどで見られたりして面白かった。フォームやグローブなどがちぐはぐになっているファンアートもあったり。ルールがわからなくても、ひとつひとつのプレーを「対戦」の1シーンとして切り出しやすい(=見ててわかりやすい)野球というスポーツの強さをあらためて感じた。物語と人格を味わうためのお膳立てが整いすぎていて怖いとさえ思える。実際の甲子園についてもファンアートとか描かれ始めたりするんだろうか。(松本)

最近なぜか急にアップフロントチャンネルに昔の楽曲がアップロードされ始めた。Y2Kブームに乗じたのだろうか? いやアップフロントがそんな気の利いたことをするはずもないし、、とか色々考えたものの、もう長らくハロプロのことを追っていないので理由はよくわからない。ミニモニ。やプッチモニをはじめ、メロン記念日、音楽ガッタス、太陽とシスコムーン、美勇伝、カントリー娘。などなど2000年代に活躍したアップフロントのグループのMVがアップされているので、適当に見ているだけでも懐かしくて楽しい。2010年代のハロプロをよく見ていた人間にとっては、Juice=Juiceがカバーしてたり、バースデーイベントやハロコンで歌われたりしていた印象のほうが強いかもしれない。とはいえMVを見る機会はさすがにほとんどないので、見ていると2000年前後ってこんな感じだったっけ……?と不思議な感覚に陥る。「BABY! 恋に KNOCK OUT!」とかやっぱりすごいなあ。(松本)

日本語学者・大野晋と作家・丸谷才一の対談本。大御所が日本語の助詞について好き勝手に喋っているという趣で、知的好奇心がそそられる。たとえば古語の「けり」は一般的に「~だった(過去)」や「~だなあ(詠嘆)」を表すといわれるが、大野は「けり」の本質を「~だと気付いた(過去に対しての今の気付き)」だと訴える。すると現代語に残っている「~だっけ」の「け」のニュアンスについても理解しやすくなる、云々。なお例のタミル語起源説についてはご愛敬というか、あまりにも唐突に登場するので逆にテンションがあがってしまう。気になる方はググってください。

自分は昔からスラングが生み出す新鮮な印象に興味があって、10年以上前にそんな感じのブログ記事を書いたこともあった。最近でいえば日韓ピジンとか。スラングは実体として特定の意味を持つというより、言語体系のオフィシャルルールから逃れようとする意志そのものだよな~ということでもあり、意味だけでスラングを捉えようとすると片手落ちになる。

この観点で最近関心があるのは夜見れなの「ぇあ~語」とか、ヤン・ナリの日本語とか。特にナリの独特な日本語は、非ネイティブゆえの自然な揺らぎと、本人がキャラクターとしてあえて揺らしている部分とが混ざっていて、決定不可能な感じがして面白い。ちゃんと考えれば揺らし方に微弱な規則を見て取ることができるはずで、そこには音声と意味と印象の結びつきについての新たな知見が眠っているはず。そうなのかよ!(松本)

🔗オマケ

バービーと原爆(太田)  

ルビ財団(松本)  

📒編集後記

  • さいきんは眠りが浅くて(暑さのせい?)難儀しています。展覧会やら映画やらに出かけても、どこか薄ぼんやりと注意散漫で(もしや、暑さのせい?)、受け取れる情報量や情念らしきものの総量が減っているような……。そんななかでも、事例紹介で取り上げた布施展には衝き動かされるものがあり、嬉しくなりました。(太田)

  • シーシャ屋で赤見かるびの切り抜きを見ていたら、店員さんに「かるびちゃん好きなんですか!」と声をかけられて恥ずかしかった。切り抜き動画について、人間はどんなコミュニケーションをとっているのでしょうか。昨日のテレビ番組の話と同じ?(瀬下)

  • 原神が年に1度の大アップデートということで、新国フォンテーヌをひたすら楽しんでます。前回はシュメール文化圏がモデルでしたが、今回はパリ、ヴェネツィアあたりが舞台のよう。相変わらずディティール凝ってて衒学的で、散策してるだけで楽しいです。もちろん原神の合間に仕事もやってます。(松本)

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ここに入りきらなかったURLを貼ったり、ゲーム制作の進捗を報告したりするDiscordをやっています。気になる方はコチラからぜひ覗いてみてください。(瀬下)

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